慶田盛　元・道田泰司　（2008.03）　指導教諭は教育実習生に何を指導しているか？　琉球大学教育学部教育実践総合センター紀要, 15, 53-64.

指導教諭は教育実習生に何を指導しているか？（の校正前ver.　表なし）

慶田盛　元*・道田泰司**

What does guidance teacher coach practice teachers in?

Hajime KEDAMORI* & Yasushi MICHITA**

問　題

　本研究の目的は，教育実習期間中，毎日の授業反省会において，指導教諭がどのような点を指導しているかについて，一教諭のケーススタディを元に検討することである。

　教育実習は，教員養成教育において重要な位置を占めている。現在の教育職員免許法では，たとえば小学校教諭１種免許状を取得するためには，教科や教職に関する科目を最低59単位取得しなければならない。しかしその中で，実際に学校現場に行き，子どもを相手に授業をする経験ができるのは，教育実習しかないのである。教科教育法をはじめとしたいくつかの授業で学生は，指導案の書き方を学び，模擬授業を行う経験を積んではいる。しかし，小学生なり中学生なり，実際に取得免許状の対象となる子どもを相手に授業をする機会は，教員養成教育のカリキュラムの中では，教育実習しかないのである。

　実際，教育実習を経験することで，教育技術的なことがらを習得するだけでなく，教職に対する構えや授業イメージ，実践イメージ，教材の捉え方などが変化することが，いくつかの研究により指摘されている（深見・木原, 2004; 羽野・堀江, 2002; 三島, 2007; 米沢, 2006）。三島(2007)は，授業イメージ，教師イメージ，子どもイメージを測定する質問紙を作成し，教育実習の前後に質問紙を実施することで，それらがどのように変化するのかを定量的に研究している。その結果，授業イメージに関しては，「マンネリズム」得点が減少し，「組み立て」得点が上昇するというように，授業を肯定的，主体的に見るように変化していた。教師イメージに関しては，「リーダー」得点が上昇しており，教師の役割理解が深まっていることが示唆された。子どもイメージに関しては，「創造性・積極性」得点と「現実的態度」得点が上昇し，「悲観的・不信」得点が減少しており，子どもを多面的に捉えるようになることが示唆されている。

　教育実習が直接的には教員志望学生の力量形成のみならず，授業観，教師観，子ども観形成において中核を占めるのであれば，教育実習を効果的に行うとともに，教員養成学部で行われるその他の学習（座学）は，教育実習にいかにスムーズに接続するかを念頭において設計されるべきではないであろうか。

　しかし現状ではそうはなっていないように思われる（もちろんそれは大学，学部によって異なるであろうが）。その理由の一つは，教育実習が，（教育実習委員会などの組織が仲立ちするにせよ）実質的に実習校に丸投げに近い形で実施されており，教育実習の中でどのようなことが行われているか，大学教員の多くは知らないのが現状だからではないだろうか。実際，現在の教育実習の問題点について，実習を担当した教諭に聞くと，実習生が全く白紙の状態で来る，慣れていない学生がほとんど，大学の授業自体が理論ばかりで役に立たない，などの声が聞かれる（浅井, 2007）。教員養成課程の学生はそこまで極端ではないであろうが，実習前教育が，教育実習を意識して組み立てられていないという点では，大同小異ではないだろうか。

　その現状に鑑み，本研究は，教育実習中に実習生が指導教諭からどのような指導を受けているかについて整理しようと試みるものである。指導教諭の指導に焦点を当てるのは，教育実習において，実習生は自分の授業のみならず，他の実習生の授業からも，指導教諭の授業からも，子どもたちからもさまざまなことを学ぶであろうが，その学びを，意味のあるものに，方向性の明確なものにするために，指導教諭による指導があると考えるからである。

方　法

　対象者　第一筆者の教育実習記録を分析対象とした。第一筆者は40代男性教諭，2007年度で附属小学校歴４年目であり，教育実習主任を担当していた。2007年度は３学年担当であり，担当した教育実習生は４名であった。2006年度は第４学年担当であり，担当した教育実習生は２名であった。

　分析対象者が教員になってからの教育実習生との関わりは，以下の通りである。公立小学校では，３回教育実習生を担当した（学年主任が担当責任者）。そのときは，一人の教育実習生を学年全体（３～４人）で専門の部分を協力しながら行ってきた。教育実習生へ講話（校務分掌の関係）や授業で指示を的確にするという指摘が主であった。また，教員の仕事を経験するという意味から，校務分掌の仕事や学校行事への参加などのかかわりをもった実習を行ってきた。公立での実習といっても，各学校においては様々な取り組みがあると思われるが，分析対象者はこのような実習のやり方を経験してきた。

　附属小に赴任してからは，毎年，教育実習生を複数人受け持っている。附属小学校の教育実習は，教育活動全般へのかかわりというよりも「授業づくり」へ重きを置いた教育実習であるため，公立小学校とは多少異なる。しかし，教育活動の中で一番時間をさき子どもと向き合う時間は「授業」であるから，それを大切にしていくことでは同じである。

　手続き　①付箋紙の記入：当該教諭は，毎日の実習生の授業を参観しながら，思ったことや指導すべきことを付箋紙にメモ書きしており，その中から、複数の実習生に共通する課題をピックアップし，それを元に，毎日の授業後の授業反省会を行っていた。付箋紙には，１枚に１項目，課題が書かれていた。内容は，授業における発問・指示・板書などの学習指導，生活指導に至るまで，教育活動すべてにかかわる事項が書き出されていた。対面の指導では，できるだけほめる言葉かけを行っているが，課題や考えてほしい部分は主に付箋紙に記入されている。

　②授業検討会およびその後：午後に行われる授業検討会では，付箋紙を元に，各個人への指摘・考えて欲しいこと，また一日全体を通して考えて欲しいことなどを提供し，議論が行われた。当該教諭が話題提供を行い，そのことから教育実習生が，自分たちで司会をたて議論を行っていき，お互いの考えを出し合った。ここで議論したことを，教育実習生はまとめ，授業検討会の最後に一人ひとりがコメントをする。最後に，指導教諭は指導助言でコメントをしていくという形をとっている。

　実習生は，授業検討会で自分自身が考えたことや感じたことを教育実習記録簿へまとめていき毎日の実習を振り返っていく。その記録簿を提出し，指導教諭がコメントをつけていく。教育実習期間中は，毎日これが繰り返される。

　③付箋紙のグルーピング：授業検討会で用いられていた付箋紙２年分（2006年度分46枚，2007年度分41枚）を，年度ごとに，ＫＪ法（川喜田, 1967）の手続きに従って付箋紙をボトムアップ的にグルーピングした（小グループの作成）。さらに，小グループをグルーピングすることで，大グループを作成した。この手続きは，年度別に，別の日に行った。2006年度分の付箋紙を対象にした作業と2007年度分の付箋紙を対象にした作業は，２週間ほど離れていたため，最初に作成した小グループや大グループが２回目の作業には影響していないと思われる。グルーピングの作業は，第一筆者と第二筆者が同席する形で行ったが，付箋紙同士の類似の判断や，グループの命名は，実習生の指導を行った第一筆者がほぼ行った。

結果と考察

　2006年度分の付箋紙をグルーピングしたものを表１に，2007年度の付箋紙をグルーピングしたものを表２に示した。以下，最初に両年に共通した課題について考察し，その後，各年度に特徴的な点について考察していく。なお以下の記述は，分析対象者である第一筆者が，実習時を振り返りながら一人称の視点で記述していく。

両年度で共通して課題となったこと

　指導された内容の中には，比較的短時間で理解され，実習生が意識することで改善し向上していくものもあれば，そうではなく，実習期間中ずっと実習生の課題になっているものもある。そのような課題は，年度が異なっても共通して指摘されている事柄であり，時期が変わっても継続して指摘されている事柄である。そのようなものとして挙げられるものとして，「板書」「授業の中で一対一対応」「言語環境を整える」「怒ることと叱ること」の４つがある。以下，各項目について，指導教諭と実習生の考え方の違いを中心に記述していく。

　「板書」は，それに対するとらえ方が私自身と異なっている。教育実習生は，黒板に板書するのは知識の伝達や指示をするためのもとというとらえ方である。もちろん，そういった役割を担っていることも確かである。教育実習生は，黒板に書いた板書事項を一時間の中で，何度も消したり，教材・教具を掲示したり取ったりとするのである。私が教育実習の中で指摘し続けてきたことは，「板書は思考の流れ」であるということである。だから，一時間の中で，子どもの発言や教材・教具を掲示したら決して取らない。一時間の授業が終わり，子どもが黒板を見たとき一時間の学習がどのように進められてきたかを振り返ることのできるような板書にすべきだと考えているからである。一時間の中で何度も書いて消していた教育実習生も，それはやらなくなった。しかし，知識の伝達のため指示をするための板書ということからは，なかなか抜け出せないでいる。

　教壇に立つと，４０人の子どもの前ですべての子どもを見ていくことはわかっていても，「授業の中で一対一対応」をどうしてもしてしまう。一人の子の発言をしっかり聞いて対応することに異論はないが，それを一人ひとりにしてしまう。「どうしてそう考えるのか」「なぜその子がこんな風に思っているのか」「賛成意見や反対意見は」と問い返し，全体へ広げることが難しい。しかし，助言を与えたことによって発言した子へ「どうして？」と問うことは意識して授業の中でやってみたりしていた。

　「言語環境を整える」ことは，生活指導をしていく上で重要である。それは，言葉によって人は傷つき言葉によって勇気づけられるからである。子どもを一人の人格と見なし，呼び捨てにしないことや乱暴な言葉遣いをしないことはそのことの基本となるからである。また，言語力は，すべての教科の学習の基礎となる。よって，文字を正しく書くということは，すべてのことにおいて見たり聞いたりして吸収していく子どもにとって大切だと考えている。教育実習生においては，教職を目指すのならば，誤字を使ったり，筆順を間違えていたり，文字が乱暴であったりすることは日頃から直していくべきだし，意識的に正していくことが大切なことだと考えている。そのことは，教育実習が始める前に注意はしてあるのだが，教育実習が進むにつれ，教育実習への慣れ・子どもとの関係の馴れ合いが，乱暴な言葉遣いや呼び捨てなどへとなっていることが多い。文字については，これまでの積み重ねであるから，指摘をしてもなかなか直っていかないが，意識して欲しいと思う。

　「怒ることと叱ること」については，教育実習の中で一番の難題であろう。教育実習生の教育観が，問われる部分でもある。毎年のことながら悩んでいることは，「叱ること」の難しさである。「怒ることと叱ること」は，どう違うのかを議論した。この課題については，2006年度は教育実習開始から四日目に，2007年度は三日目に出ている。子どもにとっては，若くて年の近いお兄ちゃんお姉ちゃん的な存在でもあるため，日が経つにつれ馴れ合いになり遠慮がなくなってくる。教育実習生にしてみれば，信頼関係がどこまでできているのかもわからないまま，叱ってしまうと「嫌われてしまうのではないか」感じているようである。それに，叱り方についてもどうしたらいいのか迷っているようである。私としては，その行為を叱るのであり，決して人間としての人格を傷つける発言をしてはならないことを助言している。実習生は，わかっているようではあるが，叱ることへの抵抗感がある。叱ることについては，教育実習期間中に何かしら自分なりの考えや取り組んできたことがあったら，記録簿に記入するようにと指示したが，子どもを叱るのは難しいという答えが返ってきた。今年度，教育実習主任を任されていたので，すべての教育実習生にアンケートを実施した。その項目の中でも，叱ることは非常に難しいと答えている。叱ることについては，全教育実習生の課題でもあるようだ。

2006年度の指導

　全体的特徴と時期による指導内容の違い　2006年度の付箋紙は，「授業における指導」と「生徒指導」と二点に大別される。その指導のほとんどが，教育実習中の始まった一週間に集中している。付箋紙の４６枚中，２６枚は実習の始まった一週間で指摘がなされている。その内容は，「言語環境（言葉遣い，呼名，丁寧な字）を整えること」「机間巡視と机間指導について」「板書の仕方について」「ねらいと中心発問について」「発問と指示について」などの授業を行う上で基本となるものである。それは，教育実習が始まり，教科指導のあり方や子どもへの対応の仕方などが指導内容として出されていると考える。教育実習後半で，こういった指摘がなくなるわけではないが減っているのは，一週目で，指摘されたことを次週以降では同じ事を何度も繰り返さない努力を教育実習生がしていることがあげられる。また，指導教諭は，授業検討会において同じ指摘をしても考え合う話題としては取り上げずに，他の課題や話題について考え合っていることがある。

　他に，教育実習の前半では，授業の全体的な統制をとるための指示のあり方や机間指導などの指摘がなされている。その指摘を受け，教育実習生は実際に授業の中で意識をして指示や机間指導を行っている姿が見られ，改善へと向かっていく。そういったことから，指導教諭は全体的な統制をとるための授業における教師の役割や子どもを目の前にしての対応の指摘が多かった。しかし，教育実習が進むつれ，実習後半では授業の具体的な場面・教材の具体的な指摘や子ども個々への対応へと指摘が変化していくことがわかる。これは，「討論の授業の条件」「新聞づくりについて」「できる子とできない子への対応について」「机間指導でどこを見ているか」「授業中に子どもの発言の対応・処理について」など，より授業場面での具体的な指摘へと変化していっていることでもわかる。

　次に，付箋紙が大別された「授業における指導」と「生徒指導」と二点について見ていく。

　授業における指導　「授業における指導」は，「授業をする上での，基本的な心構え」と「授業をどのようにすすめていくのか」という二つの階層に分かれている。ここで言う，「基本的な構え」とは，教材のおもしろさや何をどう学ばせるか考える，子どもの反応を考え指導案・板書計画をつくる，ねらいと中心発問の整合性を考える，授業での学習量・作業量が適当かなどの教材研究の部分が一つ。もう一つは，文字の書き順は正しいか，誤字を書いていないか，言葉遣いは丁寧にできているか，自分なりに子どもへの対応をもつことができているかということである。また，「授業をどのようにすすめていくのか」とは，授業が教え込みになっていないか，授業前行った教材研究したことが実際の授業の中でどのような子どもの反応・学びの姿として見られたのか，授業をどのように子どもと創っていくのかということになろう。このことは，教育実習生の授業観は，これまでの「座学」，いわゆる「教師が教え生徒が受け取る」という授業観に立っていることがうかがうことができる。よって，活動的な授業や子どもと授業を創っていこうとする意識は薄いのである。こういった授業観を本実習だけでなく観察実習や指導案立案の時点から変えていくことから，教育実習は始まっていくと考える。この点については，総合討論において改めて論じる。

　「授業をする上での，基本的な心構え」についてグルーピングを細かく行うと，「教材」「施設利用」「授業の具体的な場面から」と三つに分けられる。「授業をどのようにすすめていくのか」については，「ことば」「子ども個々への対応」「子どもの状況把握」「机間指導」「板書」「発問と指示」の六つにグルーピングできる。ここで，六つにグルーピングできたものを見てみると上記で指摘した「基本的な心構え」と重複していることがわかる。これは，授業前に指導案として考えていたことがうまくできなかったり，実際の授業場面において子どもの様々な反応や予期せぬ反応に，実習生の対応ができなかったりしていることがわかる。　

　「授業をする上での，基本的な心構え」では，一言で言えば教材研究不足ということになろう。教育実習生は，教材についての研究は行ってきているが，それに付随する細かいところまで気が回らないというのが現状である。指導案立案段階で指摘はするものの，やはり実感として伴っていないと思われる。具体的には，「体験的な活動を計画したが，一度体験はしたか」「実際にその場所へ足を運んだか」という教材研究の部分もある。また，「屋外での整列・指示の出し方，列の長さ」「特別教室の使い方の事前指導」などの指摘がされている。

　「授業をどのようにすすめていくのか」については，実習生は子どもの発言に対してどうしても一対一対応になってしまい，一人の子の発言を聞き返したり，その発言を全体で考えたり，真意を確かめたりということができない。学級４０名を相手にして授業をしているつもりが，実は一人の子だけの対応になってしまいがちになっていることが多い。これは，「子ども個々への対応」や「子どもの状況把握」の二つのカテゴリーの中に，「授業中に子どもが突発的に質問や話しかけてきたときの対応」「子どもの発言をどのように全体へ広げていくか」「授業の終わりごろのまとめで，学習状況を把握し，どう子どもへ対応したか」などの指摘が見られることからわかる。

　実習期間中において，教材そのものについての指摘があまりないのは，教育実習生の夏休みと指導教諭の夏期休業日を合わせ，共に教材研究の時間や指導案検討をする時間をとっているためであると思われる。そのことは，教育実習が始まる前に授業準備はほぼ済んでいるし，教材・教具の準備もなされているという状態になっているからである。しかし，教育実習生が，実際に授業をしてみると子どもの反応などから授業が指導案通りに進まずに，教材・教具の変更を余儀なくされるという事態に見舞われる。そのことを，解決するために日々の授業準備や教材研究の時間をとるということになる。指導教諭は，授業検討会でその教材・教具のアドバイスもおこないながら，次時の授業について一緒に考え合っていく。

　生徒指導　生徒指導については，目の前の子どもを前にしながら教育実習生一人ひとりの対応が子どもにとって非常に大きな影響を及ぼす。教育実習生が，毎年のことながら悩んでいることは，「叱ること」の難しさである。「怒ることと叱ること」は，どう違うのかを議論している。「怒ること」は感情的に子どもにあたることで，「叱ること」は冷静に子どもに対してとがめることであるとわかっているようである。しかし，実際の子どもを前にすると叱ることがなかなか実行に移せないようである。このことは，初日に出された課題「言語環境を整える」ということと通じるものでもある。それは，教育実習生が慣れてくると，子どもの名前を呼び捨てにしたり言葉が乱暴になったりするのである。これには，板書における字の丁寧さ，書き順を間違えないことや誤字を書かないという基本的なことも含まれている。慣れてくることにより，意識が低下していくのであろうと思われる。

2007年度の指導

　全体的特徴と時期による指導内容の違い　2007年度の付箋紙は，「授業における指導」として一括りできる。2006年度にあった「生徒指導」のカテゴリーがなくなっているが，「子どもへの対応の仕方」の中にそういったことが含まれている。よって，決して指導教諭の指摘としてなくなったわけではない。指摘はされているが，そういった部分の指摘が昨年度よりも小さくなったと考える。また，2006年度は第３学年であり2007年度は第４学年であったということも少なからず要因の一つであろう。

　「授業における指導」の中のグルーピングをみると，「子どもへの対応の仕方」「教師の指示・説明」「子どもが活動するために」「板書」「発言」と五つに分かれている。今回は，指摘された付箋紙が全部で４１枚あるが，前半（8/24～8/30）に８枚，中頃（8/31～9/12）に２３枚，後半（9/14～9/19）に１０枚と中頃の指摘が多くなっている。これは，各教科での教育実習生が指導にあたった単元と関係がある。2006年度は，どちらかというと教科書や教材・教具をつかった室内での学習が多かったことに対して，2007年度は体験的な活動や屋外での活動が多かったからである。そのことは，子どもの活動によって次時の活動内容が大きく変わってくるため，授業が進むにつれて授業課題が大きくなってくるからである。

　各カテゴリーの中身　これらグルーピングされた五つのカテゴリーについて見ていくことにする。「子どもへの対応の仕方」の中身について見てみると，「怒ることと叱ること」「教師の立つ位置」「教師は子どものどこを見ているのか」「注目のさせ方」「早口」と五つに分類されている。「怒ることと叱ること」については，2006年度でもでてきている共通部分であり，上記してある。「教師の立つ位置」は，子どもが発言しているときに教師はどこに向かって立っているのか，板書した後どこに立っているのかということである。「早口」は，実習生のこのことを伝えたいとかここを教えたいとか想いが強くなると早口になるためそういった指摘である。この「教師の立つ位置」「早口」については，ある実習生に対して特に課題として考えて欲しい課題である。「注目のさせ方」は，子どもが騒がしく話を聴く姿勢をとっていないのにもかかわらず，授業を進めたいということからどんどん実習生が指示を出していった。そのことで，何度も同じ説明や指示をしなければならないということが起こった。そのときに，教師はどうしたらいいのかを授業検討会で話題にしたことである。静かにさせるために行うこと，注目をあつめるためにできること，逆に静かになるまで待つことなどについて議論をした。このことは，次の「教師の指示・説明」とも関連性がある。

　「教師の指示・説明」については，「指示・説明の前」「教師の指示・説明」と二つに分類されている。「指示・説明の前」は，指示・説明をするために何を教師はしておくべきかを指摘したものである。これは，「注目のさせ方」とも重複しているが，違っているのは教師としての意識の持ち方の問題である。具体的には，「集合させるためには目的がある」「グループで作業をさせることの教師の意図とねらいは」などの指摘である。「教師の指示・説明」は，これを「より具体的な指示・説明をする」「グループで活動するために手だてと指示は明確であったか」などの指摘へとなってくる。

　「子どもが活動するために」ついては，「授業での約束事」「子どもの活動を教師はどう考えるか」「机間指導」「授業の進め方」と四つに分類される。「授業での約束事」は，校外学習における安全指導と発表形式での授業での発表の仕方や聞き方の約束である。残りの「子どもの活動を教師はどう考えるか」「机間指導」「授業の進め方」の三つについては，密接に関連がある。これは，子どもの活動を考えていく上で教師の役割を何であるかを考えたものである。特に，「子どもの活動の時間を確保する」「話し合いをする上での注意すべき事」「全体の統制をどのように行っていくか」といったことを考えながら，「机間指導」を「どのような視点をもって教師はまわっているのか」ということを組み合わせていった。また，それは「授業の進め方」で「子どもが考えさせる部分をつくる」「本時でなにをすべきか子どもにきちんとつかませる」などのこととも絡んでくる。

　「板書」については，「板書」「子どものノートの取り方」と二つに分類される。「板書」については，やはり字の丁寧さが問題となってくる。それに，共通部分でもあるが，板書をどのように考えるかということが，根本的に違うのがわかる。このことについては，共通部分にゆずることにする。それに，関連して「子どものノートの取り方」があるであろう。ノートをなかなかとろうとしない子どもに対して，どのように実習生が対応をしていくのかということである。それをみとるためには，机間巡視を行いながら机間指導をどのように行っていくかということ，それは上記した「机間指導」のまわる視点とも大きく関連している。

　「発言」については，「子どもの発言を生かす」「問い返す」の二つに分類される。「子どもの発言を生かす」ことは，授業ではとても重要なことである。子どもの発言から，授業の広がり，考えたり・考え直したり，比較したりなどをしていくが，どうしても実習生は一対一対応になりがちで実習生の欲した答えを取り上げようとしていく傾向が強い。よって，「問い返す」ことなどほとんどない。しかし，この「子どもの発言を生かす」ことは，授業において現場にいる教師なら誰しも悩んでいることでもある。そのことを，教育実習生に求めること自体無理な要求とも言えるであろう。そのようなことは，理解した上で実習での指摘をおこなった。そのような，子どもの発言が生かしていくと授業がどんどん広がりをみせるような授業を教育実習生がやっていたという嬉しい事実があることも確かである。また，無理な要求と知りながらも指摘をすることで，実習生は考えて授業をしていくのである。その指摘を理解し，授業の中で似たような場面に遭遇したときに「どうして，○○さんはそう思うの」と問い返すことをしていたのである。そんなことは，無理だと最初から線引きをしていたのは実は，指導教諭の私自身であったのかもしれない。わからなくてやっていないということと頭でわかっているができないということは大違いであり，指導教諭のもっているものを出していくことが大切であると感じたことである。あとは，実習生がどのように自分の力としていくかは，今後の経験や自分が伸びたいという意識の差としてでてくるのであろう。

付箋紙の分類を終えて

　このようにして見てくると，授業において教師はさまざまな視点をもって授業を創っていっていることがわかる。教育実習生に対しての指摘・課題として，初めて付箋紙書きであったが，終えてみると自分自身の授業に対する見方や考え方，子どもへの接し方について振り返るきっかけにもなった。端的に言うと，授業観と子ども観を見直すことができた。

全体討論

教育観・授業観

　本稿の結果として最初に，実習期間中ずっと実習生の課題になっているものがあることを指摘した。「板書」「授業の中で一対一対応」「言語環境を整える」「怒ることと叱ること」の４点である。まずはこの点について，若干の補足を行いつつ考察しよう。

　これらには共通点がある。それはこれらが，教育観や授業観が強く表れるものであるということである。板書に関しては，指導教諭の板書観が「思考の流れ，授業の流れを板書の形で残す」というものであるのに対して，実習生の板書観は，「知識や指示を伝えるための板書」というものであった。

　「授業の中での一対一対応」とは，一人の子どもの発言に対して，その子だけに教師が対応してしまうものであった。その背後にあるのは，「分からない子には丁寧に教えてあげよう」「教師が教え生徒が受け取る」という授業観であり，家庭教師的な対応に近いものである。しかしそれでは，残りの三十数名の子どもは置き去りにされてしまう。それに対して指導教諭の授業観は，「子ども一人一人を育てる」というものであり，そのために「子どもが自分で考える」「教師と子どもがともに授業を創る」と考える。その違いが子どもへの対応の仕方の違いとなって表れてくる。

　「子ども一人一人を育てる」という意識は，「叱ること」にも表れてくる。指導教諭は，子ども自身に考えさせるように叱る。しかし実習生は，「お兄ちゃんお姉ちゃん的な存在」として子どもに対応してしまうため，「育てる」意識が弱くなり，うまく叱れなかったり，一個の個人として子どもを扱うことができなくなってしまう。

　お兄ちゃんお姉ちゃん的な対応は，「言語環境」とも関わってくる。お兄ちゃんお姉ちゃん的な存在であることは，子どもとの馴れ合いとなり，子どもに対する言葉遣いや字を書いたりする上で雑になってしまう。そうなるとやはり，「子どもを育てる」意識が弱くなってしまう。

　これらは子どもに対する向かい方であり，意識のあり方であり，教育観や授業観などの考え方が反映される点である。それゆえ，容易には変わりにくいのであろう。

　では，このような課題を教育実習生が共通して持っているとするならば，それに対して，大学における教員養成教育では，何ができるであろうか。まず第一に言えるのは，これらが容易に変わりにくいのであれば，教育実習だけでは不十分であるということである。もっと早い時期からこのような問題に直面し，課題と向き合う中でじっくりと教育観や授業観を形作っていく必要があるであろう。

　しかしこれらの問題は，現実の子どもを目の前にして初めて直面できる問題である。実習前に大学の授業の中でいくら指導案を書いても，教材作りをしても，模擬授業をしても変わる部分ではない。そうであるならば，教育実習前の早い段階から，子どもと接触する経験が必要となってくるであろう。望ましいのは，教育実習時と同じように子どもに対応する経験であるが，それだけではないであろう。直接子どもに対応しなくても，子どもの様子なり小学校の授業を，目的を持って見る経験であり，それを自分なりに分析する経験であり，あるいはそのときの教師の対応の意図や考え方を知る経験である。教育観や授業観，考え方に関わる事柄は，そのようにして時間をかけて育成していくことが望ましいであろう。もっとも，このような教育は現在でも「観察実習」という形で行われてはいる。しかしそこでの経験が，学生の「教育観」を揺さぶる可能性があるものであることが，どの程度意識されているであろうか。必要なのは，３年時の教育実習までの長期的なスパンの中で，そのような観察体験を目的的に仕組むことであり，その効果をきちんと検証することであろう。観察実習が実習生に及ぼす影響に関しては，たとえば中條・磯崎・藤木・米田(2007)の研究があるが，この手の研究はほとんどない。観察実習までをも視野に入れた研究や，それに基づく目的的な実践が今後望まれるところである。

授業力の多層性

　本稿では，一人の指導教諭が残した２年分の付箋紙を，ボトムアップ的にグループ化することによって，指導教諭の指導内容を明らかにしてきた。これらは，一般的に言われている教師の指導技術との関連でいうと，どのようになるであろうか。

　有田(2006a)は，プロ教師に必要な力を「授業力」として，６項目挙げている（有田(2006b)では，ほぼ同様の内容が「対応の技術」と表現されている）。それは，①発問・指示，②板書，③資料活用，④話し合い，⑤話術・表情・パフォーマンス，⑥人間性であり，これらが授業に必要な最低限の技術，と有田は述べている。

　有田が述べているのは，授業そのものの構成要素であり，毎時の授業内容に関わるものである。本稿の分析対象者も，同様の指摘は行っている。しかし本稿で明らかになったことは，授業内容そのものではないけれども，授業を支える基盤となるものが存在する，ということである。それは，ちょっとした対応の仕方であり，言葉をどのように扱うかということである。それらはいずれもちょっとしたことではあるけれども，先に指摘したように，そこには教師の教育観が現れる。なお「板書」は，本稿でと有田の指摘が重なるところであるが，板書に関して有田は，「板書は，教師の「教育観」の表れである。板書を見るだけで，その教師の考えが分かる」（有田, 2006a, p.5）と，本稿と同じ指摘をしている。

　板書を除いた他のものを有田が教師の授業力（対応の技術）として明示的に論じていないのは，有田の原稿がすでに教師になった者を対象にしており，本稿の対象である教育実習生とは異なる点が挙げられるかも知れない。もしそうであるならば，本稿で指摘したような項目は，教育実習期間中だけでは身につけることは容易ではないものの，教師として働き始めれば比較的短い期間で身につけられることなのかもしれない。しかしそうであったとしても，現状では，実習前の学部教育で扱われているのは，教育学や心理学などの理論を除けば，教科の内容であり，指導案作成や模擬授業などを通した教育法についての教育である。これらは直接の授業内容に関わるものである。しかしこれらは，本稿で指摘したように，授業を支える基盤のうえに成り立つものである。そうであるならば，教育理論や教科内容，教科教育法だけでなく，有田の言うような対応の技術，そして本稿で指摘したような授業を支える基盤（ちょっとした対応と，教育観を含む）と，教師力の構成要素を多層的・階層的に捉えた上で，目的的・意識的にこれらを育成する教育を構想する必要があるのではないだろうか。

引用文献

浅井信雄　(2007)　教育実習における「指導」の現状について　教職教育研究, 12, 59-63.
有田和正　(2006a)　授業力とは何か　指導と評価, 2006年２月号, 4-7.
有田和正　(2006b)　「対応の技術」こそプロの技術だ　授業研究21, 2006年１月号, 7.
中條和光・磯崎哲夫・藤木大介・米田典生　(2007)　授業観察実習が教師志望学生の教授行動に関するメタ認知的知識に及ぼす影響　日本教育工学会論文誌, 31, 79-86.
深見俊崇・木原俊行　　(2004)　他者とのかかわりによる教育実習生の実践イメージの変容　日本教育工学会論文誌, 28, 69-78.
羽野ゆつこ・堀江　伸　(2002)　教員養成系学生における授業実習経験による「教材」メタファの変容　教育心理学研究, 50, 393-402.
川喜田二郎　(1967) 発想法中央公論社
三島知剛　(2007)　教育実習生の実習前後の授業・教師・子どもイメージの変容　日本教育工学会論文誌, 31, 107-114.
米沢　崇　(2006)　学部生と現職教員の教育実習経験に対する意識の検討─教育実習の改善方略への示唆を求めて─　教育学研究ジャーナル, 3, 59-68.

謝　辞

　本研究を進めるに当たり，データ入力を手伝ってくれた琉球大学教育学部の浮田宗一郎君，長橋弘貴君に感謝いたします。

指導教諭は教育実習生に何を指導しているか？（の校正前ver. 表なし）

慶田盛 元*・道田泰司**