道田泰司 (2008.10) 大講義中の小グループでの話し合いにおける学び 日本教育心理学会第50回総会論文集, 189.(東京学芸大学)

大講義中の小グループでの話し合いにおける学び

道田泰司
(琉球大学教育学部)

大学その他の授業において,少人数で話し合わせることは授業を活性化すると言われている(ジョンソン他, 2001; 西川, 2000; 佐藤, 2006など)。実際に行ってみると,学生は楽しみながら何かを学んでいるようで効果的にみえる。しかしそこで何が行われているのか,どのような話し合いが有意義なのか,などは教師側からは見えにくい。

 本研究は,大学の授業での話し合いの発話記録をもとに,話し合いの様相を知ることを目的とした。

方 法

授業と受講生 一般教養科目「人間関係論」を対象とした。受講生は全学部の1〜4年生104名,7割が1年生,2/3が法文学部の学生であった。

 授業冒頭に問いを提示し,まず教科書や配布プリントを参照しながら個人で考えさせた(5分)。次いで前後2列にすわっている3〜5人で話し合い,ワークシートを埋めながら40字程度の結論を,個人もしくはグループで作成させた(15分)。その後,指名された約10名が結論を板書し,それにコメントしながら講義を行った。ワークシート末尾で,今日の話し合いの有意義度を1.とても有意義だった〜4.全然有意義でなかったの4段階で評定させた。

データ収集 受講生4名に研究協力を依頼した。研究協力者は毎回異なる席に座り,話し合いを録音した。したがってそのグループは,初対面同士である場合が多かった。研究協力者は録音内容の文字起こしを行い,話し合いの経過や結論の決まり方,話し合いの有意義度などを研究者に報告した。

 全8回の話し合いで,4名の研究協力者のグループには延べ152名の学生が参加した。そのうちの52.6%が,その日の話し合いを「とても有意義」と評価した。

分析 初発の意見がどのようなプロセスを経て最終意見となるのかについて検討した。そのためにまず,最終意見(結論)のキーワードを特定し,その語がどのように現れ,どのように語りつがれて最終意見になったのかを,逐語録を元に追跡した。

結果と考察

 「有意義」と評価された話し合いは,お互いに他人のキーワードを引用(参照)しあったり,複数の人の意見が表面的ではないレベルでつなぎ合わされたり,他人の考えに触発されて最初の考えがふくらんだり,具体的になるような話し合いになっていた。

事例1 「人はどんなときに傍観するか?」というテーマに対して,最終意見では「同調」という語が共通して用いられていた。同調は,B「やっぱ,判断するときは,空気っていうか相手だよね」C「うーん同調みたいな?」という会話(16分)で初出であった。「同調」が引き出された言葉(「相手」)に類する言葉(周囲,周り,雰囲気)は,初発の意見としてCが述べ(5分),Dが「Cさんが言ってたように、雰囲気とかも大事かなって」(8分),「周りの人がどう反応するかによるかも」(14分)と触れ,Bが「なんか、相手の反応を見てなんかこっちの反応決めちゃうってのあるよねー」(14分)と述べ,16分目の発言につながっていた。すなわち,Cの考えがDとBに引用され,それがきっかけとなって,前回の授業のキーワードである「同調」がCによって語られ,全員の最終意見に採用されていた。

 一方,有意義度が低かった話し合いは,初発の意見を持っていないか自信がないために沈黙が多い,お互いの意見を参照しあうことがないために最終意見に共通する語が使われていない,各個人の最終意見が初発の意見と変わっていない,などであった。

事例2 テーマは「性格の変容」。最終意見は,一人がまとめ全員がそれを書いているため,ほぼ同じ内容である。キーワードは「相手」「状況」「環境」「意志」であるが,これらは4人の参加者がそれぞれ初発の意見で語ったキーワードである。初発の意見で語られたことを,とくに議論されることもなく,Eがつなぎ合わせて最終意見となっていた。

 以上のことから考えると,初発の意見として誰かが適切なことを言ったとしても,それがすぐに全員に納得されるわけではないと言える。それが共感的に引用されたり他の意見とつないだり,膨らませたり解釈しなおす中で次第に腑に落ち,最終意見として採用されるようである。これは小集団での話し合いだけではなく,授業者の発言に対しても同じであろう。その意味で,講義に小集団での話し合いをはさむことは意義があるといえよう。