道田泰司 2001.09 質問書方式における疑問の分類 日本教育心理学会第43回大会発表論文集, 166.(愛知教育大学)

質問書方式における疑問の分類

道田泰司
(琉球大学教育学部)

問 題

筆者は授業において,質問や意見を書いて提出させる「質問書方式」を用いている。本研究では,質問書に現れる疑問を分類することで,質問書を授業で活用するための基礎資料を得ることを目的とした。

方 法

調査対象 2000年度に開講した教職科目「教育心理学」で質問書を提出させた講義(13回)のうち,中間に位置する6回目の授業に対する質問書を対象とした。75名の登録者のうち,64名が出席していた。

手続き 質問(今回の講義に質問・意見)に対する回答を,KJ法を用いてボトムアップ的に分類した。実施に当たっては,各回答を80字以内に要約し,Windows用ソフトであるISOP-KJ法(アイテック社)を用いてカード合わせを行った。

結 果

 KJ法を実施した結果,20の小グループが得られた。これらを6の中グループにまとめた上,最終的に3つの大グループを作った(図1)。

「授業に役立たせにくいもの」は,単なる感想であったり漠然としていたり授業範囲外のことを述べており,直接授業内容を深めるためには用いにくいものである。

「理解を確認し深めるためのもの」は,確認や具体例を求めたり,自分なりの補足なり例を挙げてみることで,授業内容が自分の中により深く定着することを助けるための質問・意見である。

「疑問や反論・問題点の指摘」は,教師や教科書の言葉に疑問・反論を呈していたり,授業で触れられなかったポイントを指摘しているものである。

考 察

まず,6回目の授業でもまだ単なる感想や不適切な質問書が提出されていることから,教師はこのような質問を,質問書の作成指導を行う上で利用していく必要があると思われる。

それ以外の2種類の質問・意見は,立場の違いで理解することができる。一方は,授業や教科書で言われていることを「理解」することを目的とした質問であり,教師と学生が,一種の「主従関係」の中にある。それに対してもう一方は,教師や教科書に対して,「対等な立場」から疑問や問題点(批判)が指摘されており,「批判的思考」の現れと考えることができる。この2種類の質問は,性質が異なるので,それに応じた扱いが必要と思われる。

 道田(2000)では,同授業の最後に出された「学生による授業評価」の中で,「先生は自分の考えを少し押し付けすぎだと感た」という意見があったことを報告している。このような印象を学生が持つのは,対等な立場からの質問・意見に対してであろう。質問書方式で授業を行う際には,このような対等な意見を上手に扱うことが,学生の「考える力」を育成する上で重要であると考えられる。

引用文献

道田泰司 2000 批判的思考研究からメディア・リテラシーへの提言 コンピュータ&エデュケーション, 9, 54-59.