Tobacco Use Among High School Students in Buenos Aires, Argentina
Morello P, Duggan A, Adger H, Anthony JC, Joffe A.
American Journal of Public Health. 2001: 91; 219-224
発表者:宮城 今日子(老人保健学教室)
発表日:平成13年5月24日
選定理由:
日本における成人喫煙率は、他の先進国に比べて高率であり、国民一人あたりの喫煙本数も先進国の中で最も多い。そんな中、高校3年生男子においては約4人に1人が毎日喫煙者であるなど、未成年の間に喫煙習慣が広まっている。こういった日本の現状と、外国の現状とを比較しながら、どういった要因が喫煙行動へ影響を及ぼすのかを知りたかったため。
先行研究レビュー:
・日本では、明治33年に制定された未成年者喫煙禁止法によって、未成年者の喫煙が禁止されているが、中学・高校生を対象とした喫煙実態調査(「1996年度未成年者の喫煙行動に関する全国調査報告書」調査期間1996年12月〜'97年1月末)によると、「この1ヶ月にタバコを吸ったことがあるもの」の割合は学年とともに上昇し、高校3年生の男子生徒では約37%、女子生徒では約16%、そのうち、毎日喫煙者も高校3年生男子の25%、女子7%に達している。(→国民衛生の動向:2000年第47巻第9号,p89)
・九州K県で行った高校生の喫煙実態調査から、男子生徒の方が女子生徒よりも喫煙開始は早い傾向にあったが、喫煙開始後はむしろ女子生徒の方が依存しやすい傾向にあった。また、男子生徒は高校入学時に習慣的喫煙者になっている者が多く、小学校・中学校からの喫煙防止教育が必要である。(里村一成:厚生の指標;47巻1号37-43;2000,01)
・最初の喫煙は不快な経験をもたらすことが多く、悪心、めまい、咳などを経験するが、それらは必ずしも喫煙を抑制するとは限らず、数服の喫煙に始まった試験的喫煙者の1/3から1/2が常習喫煙者になるとされ、それには約2年間を要すると言われている。(A.D.McNeil,1990)
要約:
<目的>
アルゼンチンは主要なタバコ生産国で、1997年における成人男性の喫煙率は40%、女性は30%であった(アメリカでは男性27.6%、女性22.1%)。また、アルゼンチンにおける総死亡数の20%は、喫煙に関係のあるものである。著者の知る限り、アルゼンチンの学校に通う青年期の子ども達の喫煙に関して役立つようなデータはまだ発表されていない。アルゼンチンの若者は、アメリカ文化の影響が強いため、アメリカでの青年期における喫煙行動との関係もみられるのではないかと考えた。そこで、@Buenos Airesの高校生の間での喫煙の普及について評価すること、Aアルゼンチンで喫煙と結びつくと思われている要因と、アメリカで言われている要因との接点を検討すること、を目的とし、調査した。
<対象>
Buenos Airesのすべての公立校と私立校のリストをもとに、8学校区から28の公立校と56の私立校を無作為抽出した。そのうち、1学校区あたり公立3校と私立3校がそれぞれ呼びかけに応じた。そして、一般的な年齢階級や喫煙経験を含めるために、それぞれの参加校から8年生と11年生を選択した。
<方法>
1997年9月に、3909人の生徒に対して、匿名で自己記入によるアンケート調査を行った。データ収集は、13人の代理人(学校と関係のない人)に手伝ってもらった。また、アンケート実施中は、教室内に教師をおかないなどの配慮をとった。
アンケートには、アメリカの青年期の子達への調査に用いた項目のスペイン語版をあらかじめ含めておいた。1996年の11月には、8年生と11年生に対して試験的な調査を行った。これは、1つの生徒グループに7日おいて2回実施され、それぞれの質問項目における信頼度は0.65よりも高かった。いくつかの質問項目を部分修正した後、1997年5月に2回目の試験的調査を実施した。この時、本調査で実際に用いた85項目のアンケートを使用した。
アンケートには、アメリカとカナダの青年期の子たちの間で、喫煙行動と重大な相関関係がみられるとされた以下の項目を選択した。
・ 家族で影響を与える者:母親、父親、兄弟、姉妹の習慣的な喫煙について。
・ 友人で影響を与える者:男友達、女友達、彼氏、彼女、親友、同級生の習慣的な喫煙について。
・ タバコが身体へ及ぼす危険についての授業を受けたかどうか
・ タバコが身体に及ぼす影響に関する知識:7項目(点数は0〜7)を、“はい”、“いいえ”、“わからない”で答えてもらう。点数が高いほど、知識が豊富であることを示す。
・ 喫煙に関する意見(プラス面・マイナス面):8項目(点数は0〜100)で、点数が高いほど、喫煙について最も適した意見であることを示す。これは、この調査のために独自に開発したもので、文化的に適した考えを反映している。
・ 喫煙行動:20項目(点数は0〜100)で、点数が高いほど、喫煙に関して前向きな行動であることを示す。
・ 個人特性:年齢、性別、体重への満足度、1年後や25歳になったときの喫煙の意思、習慣的なアルコールやマリファナの利用、スポーツへの参加、学習到達レベルについて。
・ 抑うつスケール:6項目で、基準となるcutoff値は2.18である。
・ 喫煙状態:現在と過去の喫煙状態について、“吸っている”もしくは“時々吸っている”と答えた生徒を喫煙者とし、“吸ったことがあるが、やめた”もしくは“一度だけ吸った”、“一度も吸ったことはない”と答えた生徒を非喫煙者とした。
一次的な分析は、10代の喫煙に独立した関係を示すような特性の識別と、これらの特性における男女間の変化率を探るために、習慣的な喫煙状態に関するデータを男女別にmultiple regression modelでみた。
二次的な分析は、習慣的喫煙の各特性の関係をより完全に調査し、また今後の調査のきっかけとするためにmultiple logistic regression analysisで処理した。
結果は、喫煙・生徒の年齢・学校種間の関係は独立したものだったが、必ずしもそれらがお互いに独立してはいなかった。
分析において、性別に関する項目が欠けていた者(304人)、タバコ使用に関する項目への返答で、矛盾がみられた者(32人)は除外した。→3573人について分析した。
<結果>
・ 習慣的喫煙に関しては、女子生徒(32%)と男子生徒(29%)であまり差はみられなかった。【OR=1.12 95%CI=0.89、1.42 p=.30】
・ 公立の生徒は、私立の生徒よりも喫煙者となる者がわずかに多かった。
【32% vs 29% prevalence;OR=1.49 95%CI=1.09、2.03 p=.012】
・ 私立の女子生徒は、公立の女子生徒よりも習慣的喫煙者となる者が60%を下回っていた。
【14.1% vs 18.5% prevalence;OR=0.59 95%CI=0.40、0.87 p=.009】
・ 男子生徒における、私立と公立での違い(差)はみられなかった。
・ multiple logistic regression analysisから、11年生の方が8年生よりも習慣的喫煙者となりやすいことが示された。
・ 男子生徒における習慣的喫煙は、習慣的飲酒と関連があった。これは、女子生徒にはみられなかった。
・ 『同級生の影響』を取り除かなかった場合、『兄弟の喫煙』と強い関連がみられた。
・ 『同級生の影響』と『その他の因子の影響』を取り除かなかった場合、男女ともに『一度に5杯以上酒を飲む』、『去年、5回以上酒を飲んだ』、『習慣的なマリファナ利用』が喫煙と強い関連を示した。
・ 『同級生や家族からの影響』と『他の個別的な特性の影響』を除去した場合、男女ともに『少なくとの週3回の運動習慣』が喫煙との関連を示し、女子生徒にのみ『タバコに関する健康教育の受講』が喫煙との関連を示した。
・ 生徒達は、同級生や大人達の喫煙について、同級生の半数以上が喫煙している・大人の半数以上が喫煙している、という大きな思いこみをしていた。
<考察・結論>
・ アルゼンチンでは、青年期の女子と男子の喫煙者はほぼ同じ程度いたが、これは、アメリカやチリなどのラテンアメリカの国々のデータと一致した。
・ アルゼンチンでは、高校生の間で喫煙が広く流行しているため、青年期をターゲットにした包括的な禁煙プログラムを緊急に実施する必要がある。また、低学年を対象に予防を行うことは、彼等の喫煙開始の予防に効果的である。
・ 今回、男子における喫煙と飲酒の強い関連が示されたが、10代のおける飲酒がアルゼンチンにおいても問題となってきているため、これらに関する調査がより一層必要となった。
・ ある文献において、喫煙行動と、体重への関心事や抑うつ状態との関連が示されてあったが、今回の調査ではこれらの関係がそれほど重要なものではないという結果が示された。
・ 今後は、他のアルゼンチンの都市や地方の青年期の子たちに焦点を当てた調査を行い、今回の調査結果との比較をするつもりである。
・ アルゼンチンにおける青年期の喫煙との関連要因は、アメリカでの要因と類似していることから、今後の調査では、アメリカで効果的だと明らかになったモデルの、アルゼンチンでの有効性について焦点が置かれるだろう。
本研究の長所・短所:
<長所>
・ 調査時の生徒への配慮が示されている。
・ 各因子の影響を考慮した統計が行われている。
・ 他文献との比較を行い、今回の調査結果の特徴を明確にしている。
<短所>
・ 公立と私立の比較を行っているにもかかわらず、その結果に対する考察が不足している。
・ 飲酒に関する項目に関して、『5杯以上飲む』や『5回以上酒を飲む』といった基準設定の根拠が明確でない。
・ 文献にもあるように、今回の調査対象が、Buenos Airesにおける青年期の子たちの特徴を全て反映しているわけではないこと、生徒が質問紙に喫煙の有無を正確に答えているかわからないこと、何人かの喫煙者(または非喫煙者)が調査日をわざと休んだ可能性があることも否定できない。
学校保健への寄与:
日本での未成年者の喫煙は禁止されているにもかかわらず、高校生3年生男子においては約4人に1人が毎日喫煙者であるなど、未成年者の間に喫煙習慣がかなり広まっている。また、喫煙が他の依存性薬物乱用への入り口となる可能性は小さくないため、青少年の喫煙開始予防や早期の禁煙への働きかけが重要となる。そしてこのことは、青少年が逸脱行動や自己破壊行為に走ったり、さらには反社会的事件に巻き込まれるのを防止するにも役立つと考えられる。
私見:
青少年における喫煙は、成人期における喫煙よりも健康への影響が強いことが言われており、様々な疾患予防の点からも、喫煙予防への働きかけは必要不可欠であると考える。今回の文献にもあるように、喫煙予防を行うには、子ども達への直接的な働きかけだけでなく、広告規制やタバコ包装への警告義務づけ、公的な場所での喫煙規制といった社会環境の整備など、幅広い分野を巻き込んだ総合的なタバコ対策を推進することが大切である。また学校においては、教師も環境因子の一つであり、教師の喫煙は学校での防煙対策に影響を及ぼすと考えられている。教師の喫煙率は一般成人よりは低く、学校における喫煙規制の広まりを見せているが、まだ十分な対策を行っていないところがあるのも事実である。多くの因子の影響を考慮しつつ、個別的な対応の必要性とその難しさを強く感じた。