学齢期小児の朝食摂取状況と健康に関する知識、態度と行動についての疫学的研究

Goshiki Health Study―

永井純子、吉本佐雅子、松浦尊麿、勝野眞吾

(学校保健研究41;2000;517-532)

 

発表者:宮城 今日子

 

【選定理由】

小学校で実習した際、朝食をとらないで登校してくる子ども達が多いことに驚いた経験があり、子ども達の朝食摂取状況と健康について研究しているこの文献に興味を持ったため選定した。

 

【先行研究レビュー】

・ 生活習慣病の発症には食生活、運動、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与していることが明らかにされており(Belloc)、なかでも朝食摂取習慣は個人のライフスタイルを反映する重要な指標の一つと考えられている(Meyers、Dwyer)。

・ 中学生を対象とした調査から、朝食摂取状況が健康に関する自己評価と強く関連することを明らかにした(皆川)。

・ わが国では、6%の小児が朝食を食べてこない。その理由として、「食欲がない」「時間がない」などが多く、女子では「太りたくない」がみられる。

 

【要約】

<目的>

本研究では、対象地区の学齢期児童・生徒に対して1985年から15年間継続実施されている調査(血圧、身体測定、栄養調査、血液・尿生化学検査)に、ライフスタイルに関する調査(児童・生徒の生活習慣、健康に関する知識、態度、行動)を付加して包括性を高め、健康教育のベースラインデータを整備し、学校を基盤とした健康教育に資することを目的とした。

 

<方法>

1.調査対象

兵庫県淡路島五色町の小学校1年生から中学校3年生に在籍する男子573名、女子555名、計1128名。調査への参加率は小学校1〜3年生98.5%、小学校4〜6年生100%、中学生100%であった。

 

2.調査方法

調査は米国健康財団が開発した学校教育プログラムKnow Your Body(KYB)に日本独自の質問項目を加えたJKYB調査票を用いた。調査は毎年7月に実施している児童・生徒健康実態調査に先立ち、7月初旬に各学年ホームルームを利用し、JKYB調査用紙を用いた自己記入式アンケート法で実施した。なお、調査は無記名で行い、小学校1〜3年の実施にあたっては各担任教師が質問を読み上げ児童に記入させた。

 

3.調査内容

栄養、保健、運動に対する意識・態度及び朝食摂取習慣、喫煙・飲酒経験などの健康行動と10種の食品摂取状況について質問がバランス良く配置されている。小学校低学年用(1〜3年生用)、小学校高学年用(4〜6年生用)、中学校用の3種に分かれ、高学年になるに従って項目数が多くなるが、基本となる共通項目では学年差のでないように考慮されている。

 

4.統計的検討

調査結果は質問紙の各質問項目ごとの回答の出現頻度で示した。

朝食摂取状況と知識、意識・態度、行動との関連性をχ2検定、2群間の比率の検定をFisherの直接法を用いて分析した。

朝食摂取状況と健康に関する知識、意識・態度、食品摂取及び喫煙などの危険行動との関係を総合的に分析するため、健康に関する知識、意識・態度、危険行動(喫煙・飲酒)、食品摂取を得点化して分析した。得点化は、健康に関する知識については正答した者を1点、誤答した者を0点、意識・態度、環境、行動については健康的であるものを1点、そうでないものを0点とした(ただし、中学では3択であるので健康度が高い順に2,1,0点)。また、食品摂取は主要栄養素を多く含む食品では摂取頻度の高い順に2,1,0点、嗜好食品では摂取頻度の多い順に0,1,2点とした。

得点群間比較は分散分析によった。分散分析によって有意(p<0.05)であった場合、post hocテストとしてScheffeのF値により、それぞれの2群間の組み合わせの有意性を検定した。統計処理はStatveiwを用いた。

 

<結果>

1. 朝食摂取状況

朝食を毎日食べる者を朝食毎日群、朝食を時々食べない者を朝食時々群、朝食をほとんど食べない者を朝食なし群とし、それぞれの頻度を学年、性別でみた(表3)。小学校1〜3年全体では80%以上の児童が毎日規則正しく朝食を食べており、朝食をほとんど食べないものは少ない。しかし、小学校高学年から中学校になると朝食を毎日規則正しく食べない者が増加し、この傾向は男子より女子に顕著であった。

 

2. 朝食摂取状況と健康に関する知識

栄養についての知識は生活習慣病との関わりが深いと考えられている食品成分を調査対象とし、これらの成分がどのような食品に多く含まれているかについての知識を複数の食品から選択する方法で調べた。また、保健全体に関する知識は血圧・肥満・喫煙など成人病の予防に関する基礎的知識について質問した(表4)。全体として、朝食を毎日摂取する児童・生徒は朝食をとらない者より高い傾向がみられたが、統計的に有意なものはなく、朝食摂取の規則性と健康に関する知識の関連はあまり強くなかった。

 

3. 朝食摂取状況と健康に関する意識・態度

小学校の段階では健康に関する意識・態度には朝食摂取状況の違いによる差はほとんどみられなかった。中学校の段階になると朝食を規則正しく摂取する群とそうでない群、ことに朝食を食べない群との間に健康に関する意識・態度には差がみられ、朝食を食べない群の男子では将来の喫煙願望が朝食を毎日食べる群の2.5倍高かった。この群では男子、女子とも周囲の大人の喫煙に対する嫌悪感も低い。また、朝食を食べない女子では飲酒の勧誘に対しての拒否的態度が弱く、一方日常の運動への意欲が低かった。

 

4. 朝食摂取状況と健康に関する行動

ここでは、喫煙・飲酒経験はこれまでに一度でも喫煙あるいは飲酒を経験したものとした。また食品摂取行動はKYB調査項目に合わせて主に朝食・昼食・夕食で摂取され、からだに良いと考えられる食品5品目(牛乳、卵、魚、人参、豆腐)と主に間食として摂取されることの多い5品目(ハンバーガー、ポテトチップス、アイスクリーム、コーラ、インスタントラーメン)の計10品目の摂取状況について調査した。なお、小学校1〜3年では喫煙経験と食品摂取行動、小学校4〜6年では喫煙、飲酒、食品摂取行動、そして中学校1〜3年では喫煙、飲酒、運動習慣及び食品摂取行動の全てを調査し、朝食摂取状況との関連を検討した(表6、表7)。ここでは、朝食摂取状況と最も関連が強かったのは喫煙経験であり、朝食食べない群は他に比べて喫煙経験率が有意に高かった。また朝食を食べない群の児童・生徒は喫煙のみでなく、飲酒の経験率も高く、運動習慣を持たない、牛乳などの発育期に必要な栄養バランスの良い食品の摂取が少ないなど、リスクの高い行動をとる傾向があり、朝食を食べない群ではより低い学年からこの傾向がみられた。

 

5. 朝食摂取状況と健康得点との関連

小学校では各健康得点において有意の性差がみられなかったので男女全体で、一方中学校では意識・態度、危険行動、食品摂取及び周囲の喫煙環境に関する得点で性差がみられたので男女別に検討した(図4、図5)。小学校では朝食を食べない児童は他に比べて食品摂取得点が低く、健康的な食品を選択していない傾向がみられた。一方、中学校では朝食摂取状況は男子では喫煙・飲酒などの危険行動に、また女子ではダイエット嗜好などの食品摂取と強い関連性を示した。

 

<考察>

本調査で得られた結果を全体としてみると、本研究の対象地域の児童・生徒の健康に関する知識、意識・態度及び行動のレベルは皆川らが北海道、関東及び関西の9都道府県の32の小・中学校において行った調査の報告とほぼ等しかった。また同地区の児童・生徒の血圧、身体測定値(身長、体重、胸囲)、血液脂質のレベル及び栄養摂取状況はこれまでの疫学調査から、我が国の平均レベルにほぼ等しいことが明らかになっており、対象地域の児童・生徒の健康に関する知識、意識・態度及び行動のレベルは我が国の平均的な小児集団のレベルを示すものと考えられる。

小学校で朝食摂取状況と喫煙願望や嫌悪感との関連があまりみられなかったのは、この段階では朝食を規則正しくとるか否かは個々の児童の意思より、むしろ親など保護者の関与が大きいと考えられ、この結果はその反映と考える。

健康に関する行動で、朝食を食べない群の児童・生徒が喫煙のみでなく、飲酒、運動習慣、栄養バランスにおいてもリスクの高い生活行動をとる傾向がみられたことから、不適当な朝食と喫煙行動との強い関連はその他の個人の健康危険行動と相互に関連することが考えられ、朝食摂取が一日の行動のエネルギー源としてだけでなく、個人の健康行動との関連からも重要であると考えられる。

朝食摂取の規則性とこれらの健康に関連する知識、意識・態度及び行動との関連を総合的に得点化し検討したものから、身体面だけでなく、精神面、社会面での発育・発達が著しい中学校の段階では生徒各自の意思が顕在化するようになるが、それは男子では喫煙・飲酒などの社会的規制に反するような危険行動に、また女子ではダイエット嗜好などの食品摂取に反映され、朝食摂取の規則性はこのような行動面と強く関連すると考えられる。なお、中学校男子の朝食なし群では家族や友人に喫煙者をもつ者が多く、周囲の環境が誘因になると考えられる。

朝食のような基本的生活習慣の確立には個人への働きかけと同時に家庭環境の整備と家庭教育が重要であると考えられる。近年の我が国における、家庭環境の大きな変化や家庭教育力の低下といった問題に対しては、学校と家庭・地域が連携した包括的健康教育プログラムを作成し、そのプログラムを実際に進めていくことが有効であると考えられる。今後、さらに対象地域での継続的調査研究を進め、これらの社会的要因との関連についても明らかにする予定である。

 

【研究の長所・短所】

長所

・ 調査への参加率が良いため、対象地域を的確に把握できる。

・ 対象地域では継続的な調査が実施されているため、本調査実施後の健康教育プログラムを行う上で好条件である。

・ 学年に応じて質問項目を調整したり、担任教師を活用したりといった配慮がなされている。

 

短所・疑問

・ 小学校1〜3年生に対しても飲酒についての質問項目を用いても良かったのではないか。なぜ除いたのか?

・ 小学校低学年に対してコレステロールという言葉を用いた質問項目は適しているのだろうか?

 

【学校保健への寄与および私見】

朝食の摂取状況が、喫煙や飲酒、運動習慣、栄養バランス等において危険行動をとる傾向がみられるという結果はとても興味深かった。そして、朝食摂取が健康的食習慣に関する自己評価に影響を与えるということもおもしろかった。

本文献中にもあったように、朝食などの生活習慣は、児童・生徒だけの問題ではなく、両親といった保護者からの影響も大きいと思われる。実際、教育実習の場面で、朝寝坊といった理由で朝食をとらずに登校してくる子ども達もいたが、中には、親が(特に母親が)仕事のために朝食を作れない、作ったとしても栄養的にあまり好ましくないようなメニューになるなど、特に小学校低学年の子どもにとってはどうしようもない環境があったりする。朝食だけでなく、食事は身体的にも精神的にも大切なものであり、規則正しい習慣を確立するためには、子ども達の意識を変えていくだけでなく、生活環境を改善していくことも必要なのだと思う。最近では両親の共働きや核家族化が進み、学校と家庭だけでのアプローチが困難になってきている。文献にもあったが、こういった複雑な現状に対応できるよう、学校・家庭・地域が連携した包括的健康プログラムを作成・実施してくことが有効なのではないだろうか。子ども達が元気で安全な学校生活を送れるために、健全な発育・発達ができるために重要なものだったと思う。