Utility of Psychosocial Screening
at a School−based Health Center
Gail Gall、 Maria E.Pagano、 M.Sheila Desmond、 James M.Perrin、 J.Michael Murphy、
(Journal of School Health
September 2000,Vo70,No.7 pp292−298)
平成13年度学校保健学特論 発表者 瀧澤 透(臨床心理学教室) 6月7日
選 定 理 由
以前、ある臨床心理学の書籍を読んでいたところ PSC−Y という英文字を見かけたことがあり印象に残っていた。アメリカ学校教育保健の現場における臨床心理学的問題を学びたく本論文を選定した。
先行研究レビュー
J.Michael Murphy, Craig
Ichinose,[1996]らは、1996年カリフォルニアで6−16歳の男女379人にPSC−Yを実施したが(平均スコア12.8点)、10.6%に心理社会的問題が有り〈スコア28点〜〉 36人に医療機関を紹介した.また,本質問紙開発者のJellinek MS[1988]らは1988年に病院待合室にて6−12歳、300人にPSC−Yを実施したが28点以上14.3%であった。なおアメリカの学校精神保健についてはJ of
Sch Health 70(5) のほか『学校精神保健ガイドブック』 (猪俣編1994)が詳しい。
日本においては永井、金矢(1994)らは 65項目のアンケートを小中高生11038人に実施し学校嫌いと精神保健について報告をしている。倉本(1995)は小学生の親2686人にラター親用質問紙を実施し不登校等の問題行動と精神保健についての疫学的調査を実施している。なお、PSC−Yについては石崎(1999)が報告をしている。
要 約
〔目的〕
本研究の目的はPSC−Yの有効性と妥当性の評価にあるが このほか そこから展開するところの社会心理的機能障害の検証やハイリスクグループのメンタルヘルスサービスへの紹介、それに高等学校との関係の改善といったことも考察をしている。
〔対象と方法〕
1994〜97年ボストン市チェルシー地区のSBHC(school-based health center)に登録をしている高等学校の生徒 9−12年生(13−18歳、平均16歳)404人を対象に SBHC登録時にPSC−Y(35項目)を実施している 。なお、チェルシー地区の9−12年生は1097人 で男49%女51%、人種はヒスパニック(プエルトリコ)62%、コーカシアン18%、アジア(カンボジアなど)12% アフロアメリカン8%となっている。
PSC―Y(Pediatric Symptom Checklist -Youth)は35項目の質問の答えを Never(0点) Sometime(1点) Often(2点)と得点化し合計する。そして合計点を30点以上と以下に2別化をしたが この数値は過去のPagano
MEらによる低所得/マイノリティーの若者らにPSC―Yを実施したものをROC解析して得られた数値である。 社会心理的尺度として“健康状態に問題があるか”“両親との間に問題はあるか”など6項目の 質問を加えた。また、PSC−Y実施の2ヶ月前と後の生徒の遅刻と欠席の記録を参照した。加えて生徒自身に学業を5段階で評価してもらった。そして PSC−Yによって心理社会的機能障害と確認された者の内、医療を希望した者にはSBHCのメンタルヘルスサービスを紹介した。
統計の解析については 2群のカテゴリー間の比較はχ2検定を、2群の差については分散分析を行った。有意水準はp<.05で両側検定とした。
〔結果]
バックグラウンド(Table2)
期間中404人がSBHCに登録をしたがスクリーニングの有効は383人(95%)であった。構成は年齢13−18歳で学年は9年生28%、10年生38%、11年生25%、12年生9%。人種はヒスパニック74%、コーカシアン17%、アフロアメリカン5%、アジア5%。性別は男54%、女46%。11%は過去にメンタルヘルスサービスを受けており7%は10代の親、33%はMedicaidを受けている.年齢、学年、人種、性、Medicaid,10代の妊娠などには統計上の有意差はなかった。PSC−Yのスコア平均は18.3点で30点以上のPSC-Y CASE(以下30+)は52人(14%)である。
Table2において、30+の男女間は女性の方が(χ2 (2)=3.87 p<.05)、 30+の通院歴の有無は有の方が(χ2(2)=3.87 p<.05)高い割合を示した。また、30+で10代の親はそうでない者と(χ2(2)=15.9 p<.001)、30+でMedicaidを受けている者はそうでない者より高い割合を示した.(χ2(2)= 26.9 p<.001)。
心理社会的尺度(Table3)
感情と行動の問題のある者は40人(10%)で、メンタルヘルスサービスを受けたいと考えている者は48人(12%) 。また、心理社会的機能上の特別な問題を有している者については、面倒なことになっている者は45人(12%)、健康上の問題がある者は53人(14%)、両親との間に問題がある者は45人(12%)、そして、他の生徒と上手くやっていけない者は33人(9%) であった。 30+で心理社会的問題のある者は無い者より(χ2 (2)=60.51 P<.001)、30+でメンタルヘルスサービスを受けたいと考えている者はそうでない者より(χ2 (2)=62.05 p<.001) 高い割合を示した。また、30+で面倒なことになっている者はそうでない者より(χ2 (2)=25.45 p<.001)、30+で健康上の問題のある者はそうでない者より(χ2 (2)=11.37 p<.001)、30+で両親との間に問題のある者はそうでない者より(χ2 (2)=20.99 p<.001)、そして、他の生徒と上手くやっていけない者はそうでない者より(χ2 (2)=25.61 p<.001)高い割合を示した。
学校との関係(Table4)
学業の成績はExcellentが42人(11%)、Good、が163人(43%)、Fairが138人(36%)、Poorが40(10%)。30+においてPoor
gradeは他の3つの学力等級に比べ(χ2 (2)=42.36 自由度3 p<.001)有意に高い割合を示した。
383人中349人(91%)についてスクリーニング前後(2ヶ月)の遅刻、欠席状況を調べた。全体ではスクリーニング前の欠席は平均0.56日、遅刻は平均0.58日、スクリーニング後の欠席は平均0.56日遅刻は平均0.70日であった。
PSC−Y CASE(30+)は45人13%で、NON CASE(<30)の304人(87%)と比較すると スクリーニング前の欠席は30+が平均1.44日で、<30の平均0.42日に比べ3.38倍と有意に高く(F=29.9 p<.001)、遅刻も30+が平均1.62日で <30の平均0.43日に比べ3.76倍と有意に高い(F=34.65 p<.001)。しかし、スクリーニング後の欠席は30+が平均1.24日で <30の平均0.46日と比べて2.69倍となり(F=19.00 p<.0001)、また遅刻も30+が平均1.56日で<30の平均0.58日と比べ2.68倍となっている(F=18.55 p<.0001)。
医療紹介による学校との関係の変化(Table5)
30+の生徒がメンタルヘルスサービスに紹介されたのは <30に比べ有意に高かった.
(χ2 (2)=163.6 p<.001)。30+の内42人(81%)と、<30の内26人(8%)はメンタルへルスサービスに紹介されたがPSC―Y CASEは62%(42人/68人)であった。
医療に紹介された者は欠席が平均0.68日減少しており、紹介されない者は平均0.15日増加していて 有意差があった。(F=30.03 p<.0001)。同様に、遅刻も医療に紹介された者は平均0.38日減少しており、紹介されない者は平均0.22日増加していて有意差があった。(F=18.02 p<.0001)。
〔考察〕
PSC−Yの有効性を評価するのに2つの質問がなされるべきだ。まず、感情と行動の障害が検証されたか そして、ケースが医療に紹介され改善がはかられたか、である。14%のケース(30+)は過去の研究と同程度であり、女性、10代の親、行動と感情に障害のある者、親や友人と上手くいかない者、学校の成績が低い者、欠席と遅刻の多い者らに有意に高い割合があった。PSC−Yは容易で、生徒に受け入れられ、スクリーニングに有効であった。また、ケースをメンタルへルスサービスに紹介することで出席状況が改善された。スクリーニングと医療紹介の2ヶ月後は欠席は50%減少をし 遅刻も25%減少した.アメリカ高校生の中でヒスパニックの中退が最も高いので このことは特に重要である.
SBHCとケア・マネジメントとが連携しているので今回 無料で医療が受けられた。しかしMedicaidを受けていると制限があり、また、最近SBHCの財政もよくなく弱者や無保険の者に影響がある。今回のスクリーニングではSBHCでMedicaidを受けている者は受けていないものより5倍の医療の紹介が必要となっている。SBHCはきめの細かいサービスができ、Medicaidとも連携をし、EPSTDの満たすスクリーニングもできるので今後の発展が期待される。
本研究の限界は、第一に貧困地域の心理社会的機能障害の多いヒスパニックのものであったため医療的ケアに効果があったが、他地域の他階層の他人種では異なってくると考える。第二にバイアスがわずかながらある。そして第三に欠席、遅刻に関しては学期の都合などあり短い期間での比較となったことにある.
本研究はPSC−Yが感情と行動の問題を検証するのに有効で、医療に紹介すると学校関係の問題が改善された。PSC−Yのようなスクリーニングを実施するとSBHCの職員は容易に社会心理的問題のある学生を直ぐに見出し、フォローアップやマネジメント、医療への紹介で改善がはかれる。
研 究 の 長 所・短 所
長所
単なるアンケートや質問紙を用いての現状把握でなく 本研究の特徴はスクリーニング後のケースを医療への紹介をすることで 生徒と学校の問題を改善はかっているところにある。さらに、学校精神保健、また学校を中心とする地域メンタルへルスへの PSC−Yなどのチェックリストが果たす効果/役割を、説得力をもって考察をしているところにある。
短所
PSCは当初6−12歳を対象としており質問の35項目はDSM−Vを参照に小児科医が開発した。そして、現在PSC−Yは9−14歳が対象となっている。思春期やDRUG、性、自立の問題を背景に持つ9−12年生〈15−18歳〉に対しての実施は困難と考える。
また、細かいがTable4の記述が不十分である。(成績の合計者は383人、P296 L31はの文字が欠落)。
学 校 保 健 へ の 寄 与
1994年ごろから爆発的に増え 全米で1200ヶ所あるSBHCにおけるチェックリストを用いてのスクリーニングおよび学校精神保健の実現の可能性を示す先駆的研究である。また、従来から問題になっているアメリカの高校中退問題の改善の糸口が提示されている。
私 見
アメリカは80年代に教育改革運動が起こり やがて88年にチェルシー地区の学校管理が教育委員会からボストン私立大学へと運営が委任された。しかし東ハーレム地区のようにはいかず、例えば99年のドロップアウト率は12.25%(全米3.57%)と依然高い。ハーバード医科大の基幹教育病院であるマサチューセッツ総合病院の医師らが意図した 学校/地域メンタルへルスの介入が今後の貧困地域の多くの問題の改善するきっかけとなっていくことを願いたい。
参 考
用語解説
Psychosocial
dysfunction 心理社会的機能
SBHC(school-based Health
center) 学校を基盤とする健康センター 1969年テキサスが最初。
SBM(-management),SB-aids
education、SB-social serviceなど多様。
MGH(massachusetts
general hospital) マサチューセッツ総合病院。詳細は医学界新聞 2394,5号に日野原先生の報告がある。全米3位の評価。
ROC(receiver
operater characteristic analysis) 受信者動作特性分析.大腸がんの診断 などに利用されている。
EPSTD(early and periodic screening diagnosis and treatment)
早期かつ定期 的な検査・診断・治療
Medicaid 貧困者医療扶助 全米約3600万人
チェルシー地区 ボストン市の北東3km,人口30,000人.
参考文献
アメリカ学校教育改革について
『教育と不平等-現代アメリカ教育制度研究』 黒崎勲著 新曜社1989
『各年史 アメリカ戦後教育の展開』 今村令子編 エムティ出版 1991
学校精神保健の調査、研究論
『一般小学生の不登校等の問題行動と精神保健に関する疫学調査』
倉本英彦 日本公衛誌42(11) 1995年
『中学生における登校回避感情とその関連要因』
上地勝 高倉実 学校保健研究42 2000
『学校嫌いからみた思春期の精神保健』
永井 金矢ら 児童青年医学とその近接領域35(3)
PSC-Y
『小児の心の問題のチェックリスト』 石崎優子小児内科31(5) 1999
ボストン市チェルシー地区について
チェルシー地区のホームページ http://chelsea.mec.edu/
PSC-Y 試訳
小児の心理社会的問題の検査〔青年用〕
氏名 年月日 住所
前書き 自分に一番合うものを 項目のあとに印をしてください
PART1 決してそうでない ときどきそうだ よくそうである
1.身体の痛みや苦痛がある。
2.一人で過ごすことが多い
3.疲れやすい、元気がない
4.落ち着きがない。
じっと座っていられない
5.先生と問題を起こす。
6.学校が面白くない
7.車上で行動する。
8.白日夢をよく見る.
9.すぐに気が散る
10.新しい状況が不安だ。
11.悲しい感じがする、楽しくない
12.易怒的、怒りやすい。
13.絶望的だ
14.集中するのが困難だ
15.友人に興味がない
16.他の子供たちに乱暴する
17.学校を休む
18.落第する
19.自分のことが嫌い
20.特に悪いところがないのに
何人もの医者の所に行く。
21.睡眠に障害がある
22.くよくよすることが多い
23.以前より多く両親にいてもらいたい
24.相手が悪いと感じる
25.不必要なリスクを負う
26.しょっちゅうケガをする
27.楽しくないと感じる
28.年齢にふさわしくない幼稚な行動をする
29.ルールに従わない
30.感情を表さない
31.他人の感情を理解しない
32.他人を困らせる
33.自分の問題を他人のせいにする
34.人の物を盗む
35.参加を拒む