A Process Evaluation of Condom Availability in the Seattle, Washington Public Schools

Nancy L. Brown, Michelle T. Pennylegion, Pamela Hillard

Journal of School Health Vol.67, No.8, 1997, 336-340


報告者:原田さおり(保健社会学教室)
 

選定理由:

 現在、世界的なレベルでAIDSやSTD感染が激増しているという。とくにAIDSに関しては未だ画期的な治療法もなく、多くの人々を苦しめている。しかしこういった性行為感染症も適切な方法により予防が可能である。なかでもコンドームは手軽で入手しやすく、AIDSやSTD感染の予防および望まない妊娠の回避にも有効であるといわれている。性行為の低年齢化によりエイズ感染の若年化が危惧されている。こういった現状の中、青少年の性意識および性行動等、年少期からの性教育のありかたに関心を持った。中でもエイズ患者が多いアメリカにおいてはコンドーム教育が行われていることを知った。その内容がどういったものでその効果がどうであるか興味を持ち、この論文を選択した。

 
 

先行研究レビュー:

 
  1. 世界保健機関の報告によれば、世界のエイズ患者数は139万人以上、生存HIV感染者・エイズ患者数は2260万人に達すると推測(1996年11月末推計)。

  2. エイズサーベンランス情報によれば、我が国でもエイズは急速に拡大しており、HIV感染者・患者累積数は2899人(1996年12月末)。感染者・患者の年齢構成は20歳未満4.4%、20〜29歳41.8%、30〜39歳25.9%、40〜49歳以上16.7%、50歳以上10.8%である。感染要因は性行為感染、特に異性間の性的接触が主因となっている(1997年6月)。
 
  1. Sally G, Lisa L, David W, Nick F, Alice R, Don D J.Cndome Availability in New York City Public High School:Relationships to Cndom Use and Sexual Bhavior. American Journal of Public Health,1997,Vol.87,No.9. 1427-1433.

  2. 性行動とコンドーム入手の割合をニューヨークの学生とシカゴの学生を比較することにより、ニューヨークの公立高校におけるコンドーム入手計画の印象を検討する。結果は性行動に関してはニューヨークとシカゴの学生で同率であったが、コンドーム利用はニューヨークの学生の方が高率であった。またハイリスク(パートナーが3人以上)の学生のコンドーム利用はニューヨークの方が多かった。コンドーム入手はその利用に重大な影響があるが、性行動の割合を増やすことはない。これらの見解は学校におけるコンドーム入手がアメリカの青少年のHIVやSTD感染の危険を低くすることができると考察されている。
 
  1. Altender R.R., Price J.H., Telljohann S.K., Didion J. Locher A. Using the PRECEDEMODEL to Determine in junior High School Students Knowledge, Attitudes and Beliefs about AIDS. J.SchoolHealth,62(10),464-470,1992

  2. 米国におけるエイズ教育の評価を行っている。中学1年生から高校3年生までを対象とした1〜2時間の授業で、生徒のエイズ知識、予防行動、受容態度がどれくらい変化したかを評価している。その結果は、知識では6〜21%、予防的行動では2〜15%、受容的態度では8〜20%の増加を報告している。

    ・我が国では小学5年生から性教育を実施している。中学・高校の保健体育の教科書においてエイズの記述を予定(1997年12月現在)。

 
  1. 筑波大学健康管理学宗像によれば最初に性交を経験した平均年齢は20〜24歳の人は平均18歳、25〜29歳の人は平均19歳、30〜39歳は平均21歳、40〜49歳の人は平均22歳と低年齢化している。また現在の15〜19歳では平均17歳と予想されている。
 
  1. 皆川興栄、他, 大学生のエイズ態度と性行動との関連-性とエイズに関する全国調査結果(1993)から-, 学校保健研究 Vol.39 No.5 1997, 446-453
  2. 9大学の1〜4年生の性交経験率は男子49.9%、女子56.9%であった。またコンドーム未使用者率は男子7.3%、女子10.5%であった。我が国では女子が男子にコンドーム装着を要求することが難しいと著者は述べている。コンドームの有効性についての知識はあっても実際場面ではなかなか活かされないことが多いとも言及しており、望ましい性行動を促す性教育、エイズ教育の重要性を指摘している。

 

要約:

目的(intoroduction)

  高校生の53%が性交の経験があると全国的な報告がある。そのうち47%の学生がコンドームを利用したという。HIV感染やSTD、若年妊娠には彼らの態度が影響していることが明白である。アメリカにおいてAIDSの新患者の25%は13〜20歳の若者である。そこで健康の専門家および学校管理者は学校におけるコンドーム入手の見通しをはじめた。コンドーム入手計画は50州中21州の公立学校で実施されている。1993年、シアトルの全15の高校でコンドーム入手計画が始められた。コンドームはティーンヘルスセンターや休憩所のバスケットまたは自動販売機で入手できた。この論文ではプロジェクトに対する学生の考え、影響、改善の提案等を調査し、その評価の過程から結果を述べる。

 

対象と方法(Method)
 

   

結果(Results)

1. 学生のコンドーム入手

・コンドームを使用していた生徒の48%が学校からコンドームを入手していた。

・52%の学生は以下の理由から学校のコンドームを利用したことがなかった。

 1)性交の相手とコンドーム利用を決めたことがない。

 2)コンドーム入手をプライバシーの侵害であると考えた。

 3)シアトルにおいて校内でも校外でもコンドームの入手は容易である。

 4)学校に設置してあるコンドーム自動販売機は公的な場所にあり、25セントのコストがかかり、さらに自動販売機で購入したコンドームは非常に開けにくい包装であることから、フォーカスグループの学生はほとんど学校の自動販売機を利用したことがなかった。自動販売機よりティーンヘルスセンターのほうがコンドームを入手しやすい。

2. 誰が学校でコンドームを得るか

・フォーカスグループでは男子学生より女子学生のコンドーム入手が多かった。

これは女性は妊娠を経験し、責任がより大きいから。

・内訳は1年生17%、2年生31%、3年生29%、4年生23%だった。1年生は不安から、4年生は校外で入手するため少なかった。

3. なぜ学生はコンドームを使用するか

・妊娠や病気から身を守るため(差し迫った心配についての意見はない)。

4. なぜ学生はコンドームを使わないか

・調査された学生の半数は性交の際、コンドームを使用していなかった。

 自分たちは安全であると確信しあっている、感情を害する、効果や破損の心配、技術が難しい、コンドームの質についての理解の乏しさ等が理由である。

5. 学校におけるコンドーム入手に対する態度

・シアトルのほとんどの学生は学校でのコンドーム入手を指示する。

・参加した親の態度は学生ほど好意的でない。これは親が学生の直面している問題を理解していないことと、学校でのコンドーム入手が子どもの性行為の奨励につながるといった考えによる。

・教員や管理者の態度はあまり好意的でなく、性問題についての話し合いを快く思っていない。

・学校におけるコンドーム入手に対する反対行動はない。

6. 学校におけるコンドーム入手は性行動を奨励するか。

・フォーカスグループにおいて16グループのうち13グループの学生は学校でのコンドーム入手が学生の性行動を奨励することはないと思っていた。

・残りの3グループの学生は性行為の増加を導くと思っていた。

7. 性行為およびコンドーム使用についてのノルマ

・性交経験のある学生のわずか49%が一貫してコンドームを使っている。

・学生の性に対する態度やコンドーム使用は親よりも仲間に影響される。

8. 計画による影響の理解

・コンドームや性問題についての受け入れがより快くなったと学生は報告する。

9. 学校におけるコンドーム入手の改善点

・休憩所などプライベートな場所で自由に入手できるようにするべき。

・学校はコンドーム利用の認識をより促進させるべき。コンドーム入手について知らない学生もおり、学校はよりよいサービス(広報など)を提供すべき。

・性教育の改善

 高校生の55%は性教育について「よい」と報告したが、フォーカスグループでは禁欲および、コンドームの備え、付け方、処理についての説明がないと報告。また性に対する感情についての教育も必要であると述べている。

 

考察(Discussion)

新たな計画の確立だけでなく計画の改善が必要である。

1)コンドームはプライベートな場所で入手されるべきである。

2)コンドームの包装は利用の障害にならないようにするべきである。

3)身近な公的情報によって学生間での理解を促進する必要がある。

4)学校におけるコンドーム入手は、HIVやSTD、妊娠についての性教育に関係することから重要である。しかし学校はそれだけでなく性に関する感情についての教育も必要である。

5)学校におけるコンドーム入手が性行動またはコンドーム使用に変わるとは思えない。コンドームを持つことは、学生のコンドームに対しての受け入れを快くする手助けとなるだろう。しかし彼らの態度への影響については見解を残す。

 

結論(Conclusion)

 プライベートな場においてコンドームを自由に入手する機会を含めた、学校コンドーム入手計画の改良を勧める必要がある。

 
 

本研究の長所、短所、問題点:

・学生の親や教育者の意見の他に、実際計画を利用している学生の自由な意見により、プロジェクトをあらゆる方向から検討している点が明確でよかった。

・統計的検討がないため、プログラムの評価としては明確さに欠けると思う。

・学生調査の内容および結果が明瞭でない。

・フォーカスグループの意見が、学生調査による結果をどの程度反映しているのかわかりにくい。

・性行為については男女間の違いが少なくともあると思う。しかし男女別の意見の違いについての言及が少なく、またその違いによる適応、対応についての考察をもっと知りたかった。

 
 

学校保健への寄与および私見:

  HIVをはじめとする性行為による感染症が増加している現在、性教育は様々な方向から見直していく必要があると思う。そういった点からもこのプロジェクトとディスカッションは学校という公共の場においてコンドームに実際に触れ、互いに認識を深められると同時に、性行為による危険から自らの身を守るための正しい知識と性に対する考え方(感情)およびその問題点を明確にし、正しい行動に結びつけるのによい機会となったのではないだろうか。しかし計画に対する反対意見もわずかではあるが有り、心理的、社会的面からも今後慎重に検討していく必要画あると思われる。この計画により将来学生のコンドーム使用がどの程度増加し、エイズをはじめとする性行為感染症の感染率低下につながったのか実際的なプログラムの効果を知りたい。性の意識に関しては文化により様々であり、この計画が他国でも通用するかは疑問である。しかしながら我が国においてもHIV感染をはじめ青少年の性に関する社会問題が増加している。そういった現状を受け、具体的なかたちで対象と時代にあった適切な性教育を実施していかなければならないのではないかと実感した。
 
 

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