学校教育を行う上で必要な資料を収集する第一段階として、現代の中学生の高齢化社会に対する意識・知識に関して、基本的な事項を調査し、可能な限りの資料を得ることを主たる目的とする。
[研究方法]
1.対象
東京都内の中学生1164名(1年生157名、2年生301名、3年生703名)
2.調査方法
「高齢者(お年寄り)に関するアンケート調査」と題する高齢化社会に関する知識に関する質問10項目、高齢者に対する意識に関する質問15項目からなる質問紙調査を実施。
3.調査時期
1994年7月上旬に実施。
4.分析方法
・各項目ごとに単純集計を行い、中学生の全体の傾向を分析
・質問文への回答分布について、
(1)各学年間について
(2)高齢者と同居している群(同居群)と同居していない群(非同居群) について
(3)男子と女子について
比較検討を行い、カイ二乗検定より有意差の検討
・A項目の知識問題に関して、上記の3つの観点から、平均値の差について比較検討(t検定)
[結果と考察]
1.項目Aにおける単純集計結果
・日本人の平均寿命についての質問(A3)は、7割の者がその様子をおおよそ把握していると判断できる。
・高齢化社会の定義についての質問(A4)は、正解率が32.1%と低く、60歳以上(b)と誤答した者が57.3%と過半数を越えている。中学生が高齢者と認識する年齢は、60歳を目安にしていることが多いことがわかる。
・現在の日本が高齢化社会に属しているかどうかの質問(A5)の正解率は、45.4%と高齢化社会を認識している者は、半数にも及ばなかった。高齢化社会に関する報道が多くなっているなか、中学生の関心は、まだまだ低い様子が伺える。
・痴呆症についての質問(A12)は、正解率が29.0%と低く、痴呆症にかかっているお年寄りの率が実際より多いと感じている者が6割を越え、実状を把握していない者が多いことがわかった。
・高齢化社会に関する知識テスト(A3からA12の10項目、各項目10点、合計100点)の平均点は、48.3点と低得点であった。高齢者が年々増加している現状を感じている者は多いにもかかわらず、社会福祉制度や病気に関する知識は、かなり乏しいといえる。
*総合的に考察を加えると、中学生の高齢化社会に対する関心はかなり低いことが伺える。社会福祉制度や病気に関する基本的な知識を身につけさせることと同時に、高齢所の9割以上の者が、寝たきりでも、痴呆症でもなく、日常生活の自立して送っているという現状を把握させ、健常者生きがいをもって生活できる社会について考えさせることの必要性を強く感じる。
2.項目B(意識調査)における単純集計結果
・項目Bでは、高齢者に対する意識について調査した。
・高齢者との同居に関する質問(B1からB3)では、子供の立場から高齢者と一緒に暮らしたいと思う者が、6割を越えたのに対し、逆の立場になると肯定する者の数が減少していることは興味深い。
・長寿に対する願望を問う質問(B4)は、肯定的に感じている者は57.9%であり、約4割の者は長生きすることに希望を感じていない様子が伺える。
・お年寄りに対するイメージを複数回答(B5)してもらった結果、良いイメージの回答は一人平均2.5で「経験豊か」「やさしい」「物知り」(多い順に)であり、悪いイメージの回答は一人平均0.6個で、無回答の者も多く、「うるさい」「がんこ」「物忘れが多い」であった。
・高齢者への接し方についての質問(B6からB10)の結果より、通常の状態で生活を送っている高齢者に対しては日常的な場面で思いやりを持って接したいと感じている者が6割を越えているが、しかしその反面、介護の必要な高齢者に対しては、その接し方に自信が無いと感じている者が過半数を示している点が注目された。
*現代の中学生は、現代の日本が抱えている大きな問題に対して、ほとんど意識していない様子が伺える。積極的にボランティア活動に参加しようとする者の割合が少なかったり、高齢者の福祉を大きく国に期待している。このことは、換言すれば他力本願型の思考であって、自らの手で改善していこうという気持ちは、あまり感じられない。今後の高齢化社会のを改善していく上で重要視されているマンパワーの供給の面で、現代の中学生が大人になった社会において、不安を感じざる得ない。
3.学年間の比較調査結果について
アンケートB項目おいて、各学年間の差について比較検討(X^2検定)した結果、1学年と2学年の間には、ほとんど差が見られなかったが、1学年と3学年の間には項目B14項目中7項目で有意差が認められた。
・高齢者との同居に関する質問(B1からB3)において、3学年群は、1学年群に比べ肯定的に感じる者が少なかった。3学年群は、思春期にによる精神的変化が著しく、自立心の芽生えや、反抗現象といったことが1学年群よりも強く、このことが、高齢者との同居を考える上で、消極的に受け止めてしまう原因ではないかと推測される。
・高齢者への思いやりの度合いに関する質問(B6からB10)では、3学年群は1学年群に比べ、肯定的に感じる者の割合が少なく、思いやり度の低さが伺えた。思春期には、自立心が芽生えると共に、友達や周りの目を強く意識する傾向にある。やはりこの結果も、そういった精神的変化が影響しているといえよう。
*学年間によって高齢者に対する意識や接し方が異なっていることがわかった。中学生は、思春期に伴い、自立心、反抗行動、他人を気にする意識などが現れてくる時期であるが、この学年間の差は、思春期特有の精神的変化がもたらしたものといえよう。このことから、人間の根本的な生き方、接し方が問われる高齢化社会の問題を、学校教育の場で実践していくためには、精神的変化に左右されにくい早い時期から行うことが、必要と感じられる。また、この結果を裏付ける為に第1学年群の追跡調査の必要性も感じている。
4.同居群と非同居群の比較調査結果について
アンケートB項目おいて、同居群と非同居群との同等性の検定(X^2検定)を行った結果、14項目中5項目で有意差がみられた。
・高齢者との同居に関する質問(B1からB3)において、同居群は、非同居群と比べ肯定的に感じる割合が高い。同居群は約7割の者が一緒に暮らしていて良かったと感じており、その経験が他の項目を肯定的に感じる割合を上げていると考えられる。
・健康な高齢者に対する接し方にに関する項目(B6からB8)において、同居群と非同居群間に差は認められなかったが、介護の必要な内容では、有意差が認められ、同居群の方が、介護することを肯定的に受け止めている者が多かった。
*同居群では、非同居群に比べ、高齢者と一緒に暮らすことに良い面を感じている者が多く、少なくとも迷惑だと感じている者が少ないことがわかった。また、介護の必要な高齢者への接し方についても、同居群は非同居群に比べ、思いやりの深さが認められた。中学生では、同居している高齢者の平均年齢が72.7才と比較的若く、介護の必要な高齢者も少ないようであるが、この時期だからこそ、高齢者に多い病気の知識や介護の方法など、具体的な知識や意識を高めておく必要性があると痛感させるれる結果でもあった。
5.男子と女子の比較調査結果について
アンケートB項目おいて、女子と男子間の差について比較検討(X^2検定)した結果、14項目中12項目で両者の間に有意差が認められた。
・高齢者との同居に関する質問(B1とB2)において、女子の方が男子に比べ肯定的に感じる者の割合が高い。これは、思春期に見られる自立心、独立心が、男子は女子に比べ強く働くことが結果の要因と考えられる。
・B1からB14のすべての項目で、女子は男子に比べ肯定的に感じる者の割合が高い傾向がみられた。
・高齢者に対する思いやりの度合いを測った項目(B6からB10)では、女子の方が男子に比べ、高齢者に対する接し方に、思いやりが感じられる者が多いという結果であった。
*教育の場において「高齢化社会の問題」を扱うときに、思春期特有の男女の意識差をある程度念頭にいれておくことの必要性を示唆している。
6.項目Aにおける知識点の比較調査において
アンケート項目A3からA12 までの10項目における知識点について、1学年群と3学年群、同居群と非同居群、男子と女子間についての平均値の差の検定(t検定)を行った結果、男子と女子の間にだけ有意差が認められた。
・差が見られた項目は骨粗鬆症に関する項目(A11)で、平均値の差は、この項目の正解率からきているものと考えられる。
*高齢化社会に関する知識については、学年別、性別、高齢者との同居の有無にかかわらず、その理解度が低いことがわかった。
最近では、高齢化社会に関するますメディアによる報道がかなり増えてきているようであるが、中学生の関心は、学年、性別に関係なく低いのが現状である。中学校3年間を通して、学年が上がるにつれて高齢化社会に関する知識や意識が深まるような継続的カリキュラムが切望される。