「養護実習」に関する学生指導について
−全国養護教諭養成機関における実態−
中桐佐智子、大谷尚子
学校保健研究 37;1995;30−40
発表者:岡 美恵子(小児保健)
選定理由:
学校保健は学校教育のあらゆる場面で、すべての教職員によって推進されなければならない。特に体育・保健体育担当教員、保健主事、養護教諭などの関係教職員については資質の向上が求められており、学校保健の発展には教職員に関する研究が欠かせない。
養護教諭については、近年の心の健康問題の深刻化に伴い新たな役割が期待される等、学校保健における重要性が高まっている一方で、その養成教育に関しては理論体系化の途上にあることから課題が多い。なかでも、「養護実習」に関することは今後の養成教育における重要な課題であると考えてこの論文を選定した。
先行研究レビュー:
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日本学校保健学会「養護教員養成教育のあり方」共同研究班、堀内ら、伊東・霜田、中桐、大谷は、養護教諭養成課程の教育の中で、養護実習の内容やあり方は極めて重要な問題となっていることを示している。
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渡辺ら、秋山ら、日本教育大学協会、戸塚は、1988年の教育職員免許法改正に伴い、教諭養成にかかる教育実習について、養成機関で指導内容や運営についての検討がなされているとしてその結果について報告している。
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大谷は、養護教諭養成機関において現職養護教諭による講義を取り入れる等、指導内容の工夫の重要性を示している。
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大谷、中桐は、養護実習の運営についての現状と今後の課題について示している。また、大谷は養護実習の実習校からの評価について報告している。
要約:
[目的]
1988年の教育職員免許法の一部改正により、養護実習は最低修得単位数が従来の2単位から、事前・事後指導1単位を含めて4単位に増加し、以前はカリキュラムの枠外に置かれていた養護実習の事前・事後指導が正規の授業として単位を授与できるようになった。これを契機に各養成機関では事前・事後指導の充実を図るべく、指導内容や運営について検討がなされてきているので、教育職員免許法改正後5年を経過した時点でどのような養護実習の事前・事後指導がなされているのか、その実態を明らかにすると共に、今後の検討課題を明らかにすることを目的とする。
[対象と方法]
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対象;日本国内の養護教諭養成機関77校
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方法;養護実習の事前・事後指導の単位、運営方法、学校参観、学校訪問、評価等を内容とする質問紙を対象の養護実習指導担当者宛てに郵送し回収する。回答のあった69校を四年生大学群、特別別科群、短期大学等群、保健婦学校群の4種類に分類して分析した。これらの養成機関を学校と称する。
[結果]
養護実習の事前・事後指導の単位
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単位を「養護実習」に含めて授与する学校が49.3%、独立して授与する学校が37.7%であった。前者は短期大学等群と特別別科群に多く、後者は四年生大学群と保健婦学校群に多かった。
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単位を「養護実習」から独立して授与する学校では、授与単位は1単位から3単位にわたっていたが、1単位が73.1%と最も多かった。
養護実習の事前・事後指導の運営
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運営上配慮することとして、学生の指導面での配慮をあげた学校が79.7%、教材・人的資源での配慮をあげた学校が66.7%、関係機関の連絡と活用の配慮をあげた学校が66.7%であった(複数回答)。
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学生の指導面での配慮は保健婦学校群と特別別科群が多く、教材・人的資源の配慮は四年生大学群と特別別科群が多く、関係機関の連絡と活用の配慮は特別別科群と保健婦学校群が多かった。
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学生の指導面での配慮として、特別講義、レポート、協力校訪問、体験発表会や実習報告会等の反省会等があげられた。
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教材の配慮として、実習の手引、実習日誌、実習経験年次別ファイル等が、人的資源の
配慮として非常勤講師の活用があげられた。
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関係機関の連絡と活用の配慮として、教育実践研究指導センター等の機関の活用、実習
協力校との連絡等があげられた。
養護実習と学校参観
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学校現場を学生に参観させる機会を持っている学校は31.9%であった。
養護実習と学校訪問
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実習中に教員が何らかの方法で実習校を巡回している学校は67校、巡回していない学校は2校であった。
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全ての実習校を巡回しているのは特別別科群は86%、保健婦学校群は78%、四年生大学群は63%、短期大学等群は20%であった。
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実習校を巡回する目的は、実習校との情報交換が69.6%、実習校への挨拶が46.4%、実習生への指導が14.5%であった(複数回答)。
養護実習の評価
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評価の方法は、原則的には実習校の評価を尊重する学校が52.2%、実習校の評価に自校の評定を加味する学校が18.8%、実習校の評定をそのまま踏襲する学校が17.4%であった。
[考察]
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養護実習の事前・事後指導の1単位あたりの授業時間数は各学校で必ずしも一定でないが、1975年の調査と比較すると時間数は増えている。これは教育職員免許法律改正の効果であると考える。
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養護実習の事前・事後指導において、現場から非常勤講師を招いているのは四年生大学群と特別別科群に多い。これは教育職員免許法改正にともなう予算の裏づけによるものと思われる。一方、短期大学等群は非常勤講師をあまり活用していない。これは予算的理由や専任教員自身が退職教員であることが多いためであると推察される。
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学校現場の参観は、授業や実習の動機づけとしてまず行い、実習後に実習を補う意味で行うサンドイッチ方式が推奨される。
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養護実習中の実習方法や理論は、実習校の養護教諭一人ひとりの能力と理解に依存する部分が大きいので、巡回の機会に確認したいところである。
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実習期間中の限られた時間の中での巡回は、教員に多くの負担を課しているようである。また、巡回目的と巡回担当者については今後の検討課題としたい。
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養護実習の実習評価は実習校や指導する養護教諭によって格差がある。格差の是正、評価の観点や標準化が今後の検討課題である。
[結論]
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養護実習の事前・事後指導を独立させて単位を授与している学校は、37.7%であった。
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養護実習の事前・事後指導を独立させて単位を授与している学校は、短期大学等群と特別別科群に多く、「養護実習」に含めて単位を授与している学校は四年生大学群と保健婦学校群に多く、授与形態について学校群による差が認められた。
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養護実習の事前・事後指導の運営上の配慮として、学生の指導面での配慮は保健婦学校群と特別別科群が多く、教材・人的資源の配慮では四年生大学群と特別別科群が多かった。関係機関の連絡と活用の配慮では特別別科群と保健婦学校群が多かった。
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教材・人的資源の配慮の中で、現場から非常勤講師を招くことに関しては四年生大学群と特別別科群の80%以上が実行していて、講師の所属は幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特殊教育諸学校と全校種にわたっていた。それに対して短期大学等群では専任で実施していた。
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学生の指導面の配慮の中で、短期大学等群と保健婦学校群は、実習終了後の研究発表会を卒業論文に変わるものとして力を注いでいた。
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実習中の巡回は、特別別科群、保健婦学校群、四年生大学群、短期大学等群と低くなり、学校群格差が認められた。
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実習評価の方法は大半の学校が実習校の評価を尊重し、変更していなかった。
学校保健への寄与:
教育実習・養護実習の事前・事後指導の単位が独立して認定できるようになってから5年が経過した段階で、多様な養護教諭養成機関で行われている養護実習の事前・事後指導の実態を伺い知ることができた。
本研究の長所、短所、問題点(私見):
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日本全国の養護教諭養成機関を対象にして89,6%の回収率が得られたことは、全国の養護教諭養成機関の実態調査として十分であると考える。
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多様な養護教諭養成機関を4群に分類して比較検討することで、養成機関別の問題点が明らかになる。
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調査を実施することによって、「養護実習の事前・事後指導を単位化できることは、養成機関の養護実習に関する主導性が高まったこと」という認識を養成機関に持たせることにつながり、今後の課題に取り組む契機となる。
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今後、養護実習の事前・事後指導に関する基礎的な理論を構築したうえで研究が進められるべきである。
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