小児成人病予防健診と事後指導は動脈硬化の危険因子を減らせるか
10歳時における介入に関する3年後の追跡調査
柳 久子、田中 真理 他
日本公衆衛生雑誌 1997;44:174-182
発表者:蔡 淑娟(保健社会教室)
発表日:平成10年6月11日
選定理由:
近年、都市型文化生活圏の拡大により、小児期において成人病あるいは成人病予備軍が増加している。動脈硬化症を中心とした成人病の発症の基盤が小児期にあることが明らかにされ、その予防が学校保健上大きな課題となってきている。
この研究では、小児成人病を早期に発見するための小児成人病予防健診を実施し、動脈硬化促進の危険因子である高血圧、低HDLコレステロール、肥満といった疾患にかかっている生徒に対し、介入指導を行っている。その効果の検討は、実際に成人病の予防に役に立つのではないかと思い、興味をもったので選定した。
先行研究レビュー:
-
斉藤憲、他:肥満児童の保健指導プログラムにおける食事療法の効果.日本公衆衛生雑誌.1994;41
-
肥満度30%以上の児童50人に食事療法を3ヶ月間行い、食事療法実施前後の栄養状況と肥満度の変化を比較検討された。このプログラムは肥満児童の肥満度を男児10.4%、女児7.5%減少させた。栄養摂取量は男女ともに明らかに減少し、栄養比率は指導によって、糖質エネルギー比が低く、たんぱく質エネルギー比が高くなったという結果であった。
-
宇佐見隆廣、他:中学生における動脈硬化促進リスクの軽減・是正に関する検討.日本公衆衛生雑誌.1993;40
-
動脈硬化の促進因子を保有するハイリスク児105人(中学1年生)に対し、食行動の改善と身体活動の増強を主眼とした自己管理の評価行動を勧奨し、保有リスクの軽減・是正の検討を行っている。結果としては肥満度や脂質系のTCとTGは男女とも有意な低下が観察され、他の各検査値も改善傾向例が過半数以上(65.7%)を占めていたと報告された。
要約:
目的(Introduction)
小中学校における“小児成人病予防健診”とその事後指導により、実際に成人病発症のリスクを減らせるどうかを検討する。
対象と方法(Method)
茨城県つくば市周辺の3町村を介入地区とした。10歳時に男児361人、女児383人を対象に小児成人病予防健診を実施し、身長、体重、血圧、血清総コレステロールを測定した。肥満および高コレステロール血症小児に対する指導内容の概略を表1に示した。13歳時に、前述の項目にHDLーコレステロール値を加えた同様の健診を実施し、追跡調査を行った。
対照として介入地区に隣接する3町村の中学1年生(男児338人、女児325人)の初回の小児成人病予防健診による検査結果を用いた。小学校4年生時の身長、体重を保存されている生活記録より調査した。非介入地区においては、年1回または各学期に1回、身長と体重等の体格を測定するのみで、肥満小児に対する指導は実施していなかった。
結果(Result)
-
13歳時における介入地区女児のHDL-Cの平均値は、非介入地区女児より有意に高く、動脈硬化指数の平均値は有意に低かった。また、介入地区における13歳時の血圧の平均値は、非介入地区に比べて有意に低かった。
-
10歳時に肥満度が40%以上あり、介入を受けた肥満小児は、介入を受けなかった肥満度40%以上の小児に比べて、3年後に肥満度正常となった者が有意に多かった。
-
10歳時肥満度が20%以上あり、介入を受けた肥満女児では、介入を受けなかった肥満女児に比べて、3年後に肥満度が低下した者が有意に多かった。
-
女児の場合、身長140cm程度を境として、肥満に対する介入の効果が減弱することが示唆された。
-
男児においては、10歳時における介入に明らかな効果を認めなかったが、3年間に身長が20cm以上伸びた肥満男児では、肥満が改善した者が有意に多かった。
-
男女とも、肥満が改善した小児においては、改善しなかった小児に比べ、13歳時の動脈硬化指数が有意に低かった。
考察(Discussion)
-
肥満小児に対する介入効果
-
女児においては、肥満に対する介入に効果があることが示唆されたが、男児においては明らかな介入効果は認められなかった。
-
女児では指導時の体格が、指導による肥満の改善と関連しており、重症の肥満女児では介入の効果が乏しいことが示唆された。また、指導時の身長140cm程度を境として、指導を受けても肥満度が改善しない率が高くなることが分かった。肥満女児に対する指導は思春期以前に開始する事が望ましいと思われた。
-
男児においては、指導時の体格は指導効果との関係が薄かったが、指導を受けてから以降の身長の伸びが、肥満の改善において重要な因子であると思われた。介入地区の肥満減少群と増加群の間に、13歳時の身長に有意差が認められたことから、追跡期間を延ばせば、男児においても介入の効果が認められる可能性があると考えられる。
-
小学校1年時から4年時における肥満児に対する指導の効果が報告されており、男女とも介入効果を認め、肥満度の改善に男女差は乏しかった。今後、肥満小児に対する介入の時期については、性差を含めてさらに検討が必要であろう。
-
血清脂質および血圧に関する介入効果
-
介入地区は非介入地区と比較して、13歳時における女児のHDL-Cが有意に高く、動脈硬化指数が有意に低かった。
-
男女とも血圧の平均値は非介入地区より、介入地区において有意に低かった。しかし、これを小児成人病予防健診とその後の活動の効果であると結論づけるのは早急であろう。
-
非介入地区の10歳時の血清脂質値が得られなかったことや、両地区の13歳時の健診時期が違うことから、地域差や季節変動との関係も否定できない。
-
血圧に関しては非介入地区の小児の多くにとって、血圧の測定は初めての経験であり、心理的側面の関与も十分に考えられる。
-
今後は20歳程度まで追跡調査を行い、喫煙等のライフスタイルを含めた調査により、小児成人病予防健診および事後指導の効果について評価していく予定である。
学校保健への寄与:
小児成人病予防健診とその事後の指導により、動脈硬化指数やHDL-Cの平均値、肥満度が低下することが明らかにされた。今後、肥満、高脂血症、高血圧などのスクリーニングを学校保健のなかで、広げていくことが重要である。
私見(コメント):
-
この論文のタイトルは“小児成人病予防健診と事後指導は動脈硬化の危険因子を減らせるか”であるが、追跡調査が行われた13歳といってもまだ小児期であるため、動脈硬化の危険因子を減らせるかどうかということに対して、結論をつけるのは早すぎるのではないかと思う。
考察にも言及されているように、比較調査において両地区の条件が同じように、十分にコントロールされていれば、よりよい結果が得られるのではないかと私も思う。
Topへ戻る
前へ戻る