平成12年度の研究活動内容

概要
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1.思春期集団における抑うつ症状とその関連要因についての地域比較研究

これまでに、沖縄全域の中学生・高校生を対象にして、抑うつ症状に関する疫学的調査を実施してきた。結論として、思春期にとって生活ストレッサーは抑うつ増強要因に、セルフエスティーム、ソーシャルサポート、健康習慣、内的統制感は抑うつ軽減要因になり得ること、また、これらの関連性は一過性の抑うつ症状にも持続した抑うつ症状にも同様にみられることが示唆された。さらに、心理社会的要因の性差によって抑うつ症状の性差が説明できることが示された。本年度は、これらの知見に地域差が見られるかどうかを検討するために、沖縄県および九州本土の高校生を対象に調査を行った。現在、データ解析中であるが、抑うつ症状に関しては有意な地域差がみられ、九州本土の方が悪い傾向を示した。また、沖縄県の抑うつについては、3年前に比べて悪化していることが示されている。(本研究は日本学術振興会科研費基盤研究(C)(2)12670365の補助を受けている。)

一方、大学生を対象に、抑うつ症状と健康習慣について日本と中国の国際比較を行ったところ、日本の大学生が中国の大学生よりも有意に抑うつ症状が高く、実践している健康習慣数が少ない傾向を示した。国の影響をコントロールして抑うつと健康習慣の関連を検討したところ、男子では有意な負の相関がみられたが、女子では有意な相関が見られず国の違いによってこれらの関連性を説明し得ることが示唆された。

 

2.青少年の健康に影響を及ぼす危険行動とライフスタイルについて

欧米ではWHOCross-National Survey on Health Behavior in School-Aged Childrenや米国CDCYouth Risk Behavior Surveillanceなどの大規模調査により、青少年の健康に関わる危険行動を全国規模でモニターし防止のために努力しているが、本邦ではこのようなモニタリングシステムはまだ構築されていない。本研究では青少年におけるこれらの危険行動、すなわち喫煙、アルコール・薬物使用、傷害に関連する行動、危険な性行動、不健康な食行動、運動不足の実態および関連要因を検討した。その結果、高校生の危険行動の頻度は米国に比較して低く、人口統計学的変数により差異が見られること、各行動に特異的な関連要因および共通する関連要因があること、喫煙、飲酒、性行動はクラスター化し、集積(accumulation)が起こることを明らかにした。

 

3.小学校高学年における薬物乱用防止教育の介入効果

わが国の青少年の薬物乱用は、有機溶剤だけでなく覚せい剤や大麻などの薬物乱用に著しい増加がみられ、極めて憂慮する状況になってきている。学校は児童生徒に計画的、系統的に薬物乱用防止教育を行うことができる最適の場であることから、学校における薬物乱用防止教育の積極的な取り組みが指摘されるところである。本研究では小学校高学年を対象に、社会的影響アプローチプログラムとライフスキルトレーニングプログラム(LST)の2つタイプのプログラムを各々3時間実施し、介入効果を評価した。事後調査、follow-up調査の結果について、プログラム群と授業を実施しなかった対照群とを比較すると、両プログラムとも知識、態度の変容に顕著な効果がみられた。しかし、両プログラムの効果の間には違いはあまりみられなかった。

 

4.小学校高学年における心の健康教育の介入効果

最近の児童生徒における健康に関する現代的課題の背景には、心の健康問題が大きくかかわっていることが考えられる。今回、改訂された学習指導要領では、自己を高めていくことの大切さや、欲求やストレスへの対処に重点を置く心の健康教育が新たに強調されている。本研究では小学校高学年を対象に、社会的問題解決スキルトレーニングとセルフエスティーム向上を主とした授業を計5時間実施し、それらの獲得状況と精神的健康の変容を評価した。事後調査について、介入群と授業を実施しなかった対照群とを比較すると、ある程度の問題解決スキルの獲得が示されたが、セルフエスティームの向上、精神的健康の改善には至らなかった。

 

5.青少年の体組成と生活習慣、自覚症状との関連

体脂肪率や骨密度には運動や食生活が大きく影響することがよく知られている。また、成人では体脂肪率とよく相関するBMIと死亡率の関係がJ字型を示すことが指摘されている。これまでに、青少年の体脂肪率や骨密度と生活習慣の関連を検討してきたが、本年度は、大学生を対象に1年間の運動量総量(MET-hours/week)を算出し、それと踵骨の骨密度との関連性を検討した。その結果、男女とも過去の運動歴をコントロールした後も、1年間の運動量総量は骨密度と有意な正の相関を示したことから、大学生における1年間の運動が骨密度の増加に関与することが示唆された。

 

6.ラオスにおける蚊媒介性感染症の疫学的調査研究(環境保健学教室、地域看護学教室、寄生虫学教室との共同研究)

ラオス国カムアン県の48村(ニュマラット、セバンファイ、ボラパ、タケク)の住民を対象に、血液検査(マラリア陽性率)、身体測定およびマラリア流行に関連する知識、生活習慣、保健行動などについての面接調査を実施した。本年度は、218歳の青少年を対象に栄養状態とマラリア感染との関連について検討を行った。栄養状態は、るいそう(wasting)と発育阻害(stunting)についてWHO分類にしたがって評価した。その結果、熱帯熱マラリア感染(P. falciparum infection)とるいそう(wasting)に有意な関連が見られ、熱帯熱マラリア感染者の17%がやせすぎで、非感染者に比べて有意に多い傾向にあった。しかし、三日熱マラリア感染(P. vivax infection)と栄養不良との間には有意な関連が見られなかった。

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原著

G00001: Takakura M, Sakihara S, Shiroma A, Todoriki H, Ozasa Y (2000) Risk factors for cigarette smoking among high school students in Okinawa, Japan. J Epidemiol 10 140-148.

G00002: 高倉実, 崎原盛造, 與古田孝夫, 新屋信雄 (2000) 中学生における抑うつ症状と心理社会的要因との関連. 学校保健研究 42 49-58.

G00003: 高倉実, 崎原盛造, 與古田孝夫 (2000) 大学生の抑うつ症状に関連する要因についての短期的縦断研究. 民族衛生 66 109-121.

G00004: Takakura M, Sakihara S (2000) Gender differences in the association between psychosocial factors and depressive symptoms in Japanese junior high school students. J Epidemiol 10 383-391.

G00005: 上地勝, 高倉実 (2000) 中学生の登校回避感情とその関連要因. 学校保健研究 42 375-385.

 

報告

H00001: 永山智子, 高倉実 (2000) 高校生における日常生活ストレッサー尺度の検討. 民族衛生 66 98.

H00002: 大城昌直, 喜友名陽子, 與古田孝夫, 高倉実, 和氣則江, 名嘉幸一, 石津宏 (2000) 精神科看護従事者のQOLとその関連要因についての検討(1)基本属性, 職場環境因子による比較結果から. 民族衛生 66 145-146.

H00003: 喜友名陽子, 大城昌直, 與古田孝夫, 高倉実, 和氣則江, 名嘉幸一, 石津宏 (2000) 精神科看護従事者のQOLとその関連要因についての検討(2)ストレス対処行動,タイプA行動パターンによる比較結果から. 民族衛生 66 146.

H00004: 高倉実, 崎原盛造, 與古田孝夫 (2000) 大学生の抑うつ症状に関連する要因についての短期的縦断研究. 民族衛生 66 146-147.

H00005: 渡久地洋樹, 砂川大樹, 平良一彦, 濱元盛正, 新屋信雄, 長濱直樹, 宇座美代子, 高倉実 (2000) 地域高齢者の生活体力とADLに関する検討. 民族衛生 66 148.

H00006: 與古田孝夫, 石津宏, 高倉実, 具志香奈絵, 下地紀靖, 柳田信彦 (2000) 緩和ケア病棟に勤務する看護者の看護不安に影響する要因についての検討. 41回日本心身医学会総会 180.

H00007: Yokota T, Ishizu H, Takakura M, Gushi K, Xin Quan, Wen-jye Chen, Xu Chung Ying, Shimoji N, Yanagida N, Shimoji T (2000) A study of anxiety of nursing staff while caring for patients at the palliative care unit correlated with quality of life and views on life and death. The 9th Congress of Asian Chapter of the International College of Psychosomatic Medicine

H00008: 大島知恵, 高倉実 (2000) 小学校における心の健康教育の短期的効果について:社会的問題解決の獲得と自尊心の向上を通して. 学校保健研究 42(Suppl) 302-303.

H00009: 上地勝, 高倉実 (2000) 中学生における登校回避感情とその関連要因. 学校保健研究 42(Suppl) 408-409.

H00010: 上原康代, 高倉実 (2000) 小学5年生における薬物乱用防止教育の短期的教育効果:二つのタイプのプログラムについて. 学校保健研究 42(Suppl) 556-557.

H00011: 高倉実, 上地勝, 栗原淳, 與古田孝夫, 和気則江, 崎原盛造 (2000) 思春期用日常生活ストレッサー尺度短縮版(ADES-20)の作成. 学校保健研究 42(Suppl) 616-617.

 

その他

M00001: 高倉実 (2000) 平成911年度文部省科学研究費補助金基盤研究(C)(2)研究成果報告書. 1-67.

M00002: 高倉実 (2000) 糸満市立米須小学校校内研修会. 4-6.

M00003: 高倉実 (2000) 平成12年度沖縄県地区別養護教諭研修会. 1-13.

M00004: 高倉実, 新屋信雄 (2000) 平成12年度琉球大学公開講座. 1-34.

M00005: Uza M, Sasaki Y, Miyagi I, Touma T, Kobayashi J, Nagahama N, Takakura M (2000) Knowledge and behavior of the inhabitants on the prevention of malaria in pilot villages. Epidemiological survey on malaria and other mosquito born diseases in Lao PDR: Mid term report. 12-32.

 

平成12年度文部省科学研究費補助金

1.研究代表者(高倉実)基盤研究(C)(2)「思春期集団における抑うつ症状とその関連要因についての地域比較研究」

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