高校生の抑うつ症状と心理社会的関連要因

○高倉 実(琉球大・教養部),平良一彦,新屋信雄(琉球大・教育学部),崎原盛造(琉球大・医学部,同地域医療センター),三輪一義(琉球大・教養部)
 


【要約】
 沖縄県の高校生について、抑うつ症状と心理社会的要因との関連性を質問紙法を用いて検討したところ、男女ともに、抑うつ症状と日常苛立ち事、ソーシャル・サポート、自尊心、健康習慣との間に有意な関連性がみられた。これらの結果は思春期の心理的ストレス過程の解明に寄与できると思われる。 

【目的】
 児童生徒の心身症には抑うつ症状を伴う身体症状が多いことや、学校嫌いや登校拒否の子供たちが抑うつを強く訴えていると報告されていることから、抑うつ症状は思春期集団の精神的健康を知る上で一つの重要な指標になると思われる。また、ストレス研究において、抑うつ症状はストレス反応としてよく用いられており、思春期のストレス過程における結果変数としても有用性が指摘されている。最近の研究では、ストレス反応を規定する要因として、ストレッサーだけでなく、個人の特性や社会的支援、自尊心、対処行動などの心理社会的要因が媒介変数として影響を及ぼしていることが指摘されている。しかし、本邦の思春期のストレス過程に関する知見はきわめて乏しい。そこで、本研究では高校生の抑うつ症状と心理社会的要因の関連性を横断的に検討することを目的とした。

【対象と方法】
 沖縄県全域から調査について理解協力の得られた全日制県立高校を職業高校を含めて9校を選出し、各高校の各学年から任意に抽出された3〜4学級の生徒3254名を対象にホームルームの時間に無記名式の質問紙調査を実施した。対象のうち、抑うつ尺度に欠損値がなかった者2935名(男子1415名,女子1520名)を分析対象とした。対象の男女比、学校種比、進学率分布が平成6年度沖縄県学校基本調査報告書とほぼ一致していることから、対象は沖縄県の高校生集団を代表していると思われる。抑うつ症状はZungのSelf-Rating Depression Scale(SDS)を用いて評定した。ストレッサーはLazarusらのDaily Hassles Scaleを参考にして独自に作成した日常苛立ち事尺度(15項目,α=0.85)およびHolmes & Raheの社会的再適応評定尺度を参考にして独自に作成した生活出来事尺度(15項目,α=0.57)を用いた。ソーシャルサポートは久田らの学生用ソーシャルサポート尺度を修正して用いた(α=0.92)。自尊心は自分自身への満足度から評定した。健康習慣は睡眠、運動、朝食、間食、喫煙、飲酒の6習慣を用いた。

【結果および考察】
 抑うつ症状の平均得点は男子40.4(SD6.97)、女子41.7(SD6.76)で正規分布に近い分布型を呈し、女子の得点が有意に高かった(p<0.001)。生活出来事、ソーシャルサポートは女子の得点が有意に高く、自尊心、健康習慣は男子の得点が高かった(p<0.05)。表に抑うつ症状に対する重回帰分析の結果を示した。ストレッサーの中では男女ともに生活出来事に関連がみられず日常苛立ち事に有意な正の関連がみられたことから、急性的で重大な出来事より慢性的で日常的なストレッサーの方が抑うつ症状を高めると考えられる。ソーシャルサポート、健康習慣、自尊心は男女ともに抑うつ症状を軽減する有意な負の関連を示しこれまでの知見を支持していた。その中で自尊心の関連が高かったことから、自尊心を高めるようなライフスキル形成教育の重要性が示唆できる。地域は男女ともに他の要因と独立して関連していたことから、高校生にとって都市部である本島は一つのストレス要因になるのかもしれない。女子の学校種も関連していたことから職業高校についても同様のことが考えられる。本研究は横断的であるため因果関係は論じ得ず、今後は抑うつ症状を軽減した要因のストレス緩衝効果の検討も含めた縦断的研究が必要となる。

 


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