高校生における日常生活ストレッサーの表出パターンと抑うつ症状との関連


○高倉実*1 崎原盛造*2 新屋信雄*3 平良一彦*3

*1琉球大学医学部学校保健学教室 *2琉球大学医学部保健社会学教室 *3琉球大学教育学部

キーワード:生活ストレッサー、抑うつ症状、クラスター分析


はじめに

思春期の抑うつ症状に関連する要因として生活ストレッサーに焦点をあてたいくつかの研究は、ストレッサー領域によってストレス反応との関連性に違いが見られることを指摘している。しかしながら、これらの知見はストレッサー領域とストレス反応との線形関係について論じていることから、思春期集団全体には適用できるが、個々人についてみた場合、同じようにあてはまるとは限らない。実際の日常生活では、個人によって経験するストレッサー領域は異なり、単一な思春期集団の中にも異質な小集団が存在することが考えられる。個々人の複雑な生活ストレッサーをより正確に表現するためには、生活ストレッサーを構成するストレッサー領域の表出パターンを検討し、それらがどのようにグループ化されるのかを明らかにすることが有用となる。しかし、これまでに思春期の生活ストレッサーについて表出パターンを明らかにし、それらと抑うつ症状との関係を検討した研究はみられない。本研究ではクラスター分析を適用して、高校生の日常生活ストレッサーの表出パターンを分類し、各パターンに属する小集団の特徴や抑うつ症状の実態を把握することを目的とした。

対象と方法

沖縄県全域の全日制県立高等学校の生徒について1997年の10月から12月にかけて自記式無記名の質問紙調査を実施した。対象は沖縄全6校区からそれぞれ普通科高校1校、専門学科高校1校、計12校を選出し、各校の各学年から抽出された1〜4学級に在籍する生徒3,202名である。対象中、2,919名が回答したが、分析には抑うつ尺度およびストレッサー尺度に欠損値がなかった者2,336名(男子1,107名、女子1,229名、普通科1,628名、専門学科708名)を用いた。分析対象の属性割合は平成9年度沖縄県学校基本調査報告書とほぼ一致している。抑うつ症状はCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale(以下CES-D)日本版を用いて測定した。日常生活におけるストレッサーは思春期用日常生活ストレッサー尺度1)(Adolescent Daily Events Scale以下ADES)を用いて測定した。ADESは部活動、学業、教師との関係、家族、友人関係の下位尺度から構成される。過去6ヶ月間の体験頻度とその嫌悪度を4件法で評定させ、それらを乗じて項目得点を算出し合計を尺度得点とした。本対象におけるα係数は.83であった。分析はADESの各下位尺度の標準得点を用いてk-means法によるクラスター分析を行った。その際、クラスター数を6として解析した。

結果

図1に各クラスター群の人数割合を示した。第5クラスターが1,193人(51.1%)と最も多くの生徒を含んでいた。図2に各クラスター群のADES下位尺度標準得点の平均値を示した。一元配置分散分析の結果、すべての下位尺度得点においてクラスター間に有意な差が認められた(p<0.001)。第1クラスターはいずれのストレッサーも高いが、特に部活動に顕著な高い得点を示した生徒群である。第2クラスターは部活動を除くいずれのストレッサーも高いが、特に友人関係に顕著な高い得点を示した生徒群である。第3クラスターは家族ストレッサーのみが高く、他の得点は平均的あるいは平均より低い生徒群である。第4クラスターは学業ストレッサーのみが高く、他の得点はいずれも平均より低い生徒群である。第5クラスターはいずれのストレッサーも低い生徒群である。第6クラスターはいずれのストレッサーも高いが、特に教師との関係ストレッサーが顕著に高い生徒群である。図3に各クラスター群の抑うつ症状平均得点を示した。一元配置分散分析の結果、各クラスター間の抑うつ症状に有意な差がみられた(p<0.001)。多重比較を行ったところ、友人関係ストレス群は他のいずれの群よりも抑うつ症状が有意に高く、逆に、低ストレス群は他のいずれの群よりも抑うつ症状が有意に低かった。また、家族ストレス群と教師ストレス群は学業ストレス群に比べて抑うつ症状が有意に高かった。

戻る
戻る
戻る

考察 

分類されたクラスターのパターンは、ADES下位尺度得点の分布から部活動ストレス群、友人関係ストレス群、家族ストレス群、学業ストレス群、低ストレス群、教師ストレス群と表現した。分散分析の結果、クラスター間の抑うつ症状に差がみられ、友人関係ストレス群の抑うつ症状が最も高く、この時期に友達との関係がうまくいかなくなることはきわめて大きなストレスとなり、抑うつ症状もかなり高くなることがうかがえる。この群に属する生徒は対象の5.6%と最も少数のクラスターであるが、抑うつ症状に対する危険性を最も有する群と考えられ、少数であるが注意を要する生徒群であることが示唆された。一方、低ストレス群の抑うつ症状は最も低く、すべての生活領域におけるストレスが低い生徒は抑うつ症状の表出が少ない傾向にあった。この群には対象の約半数が属しており、日常生活のストレスが低く心理的に適応した群であると考えられる。また、教師ストレス群と家族ストレス群の抑うつ症状が高い傾向にあったが、教師ストレス群は突出した領域のみならず全体的なストレスレベルが高かったことから抑うつ症状が高くなったと仮定できる。しかし、家族ストレス群は家族領域のみにストレスがみられ全体的なストレスレベルは低いグループであったことから、家族に関するストレスを強く感じている生徒は、他の生活領域にストレスがなくとも抑うつ症状を強く表出する傾向にあると考えられる。

結論として、高校生集団には日常生活ストレッサーの表出パターンが異なる6つの小集団が存在し、これらの小集団の中で、友人関係ストレス群の抑うつ症状が最も高いことが示された。以上のことから、高校生の抑うつ症状の軽減を図る場合、日常生活のストレッサーについての表出パターンを把握し、最も危険なグループである友人関係ストレス群に重点的に介入することが効果的であると思われる。

文献

1)高倉実,他:思春期用日常生活ストレッサー尺度の試作、学校保健研究、40:29-40、1998

(本研究は平成9年度文部省科学研究費補助金基盤研究(C)(2)課題番号09670403の補助を受けた)



前に戻る