中学生における抑うつ症状と心理社会的要因との関連
1)琉球大学医学部学校保健学, 2)琉球大学教育学部生涯健康基礎学, 3)琉球大学医学部保健社会学

キーワード:中学生、抑うつ症状、心理社会的要因

はじめに

これまでの抑うつ研究の多くは成人に焦点が当てられ、その心理社会的関連要因についてもかなり明らかにされてきた。成人の抑うつ症状に関連していた心理社会的要因、例えば、生活ストレッサー、セルフエスティーム、セルフイメージ、ソーシャルサポートなどの多くの要因は思春期の抑うつ症状にも関連していることが、近年、欧米のいくつかの研究で確認されている。しかしながら、わが国では、思春期の抑うつ症状の関連要因として、多数の心理社会的要因を同時に投入して検討した研究はほとんどみられない。さらに、個々の要因について詳細にみていくと、米国の思春期における学校ストレッサーは抑うつ症状と関連しなかったとする報告があるのに対して、日本の中学生では学校ストレッサーが抑うつ症状と関連していたと報告されているように、わが国と欧米の知見の間に不一致がみられる要因も存在する。したがって、わが国においては、思春期の抑うつ症状と心理社会的要因との関連性についての証拠が、いまだ十分に蓄積されていないのが現状であると思われる。そこで、本研究では、中学生を対象に抑うつ症状と心理社会的要因との関連性を検討することを目的とした。

対象と方法

沖縄県全域の公立中学校の生徒について1998年の9月から11月にかけて質問紙調査を実施した。調査は学級担任が自記式無記名の質問紙を配布し、生徒に簡単な説明をした後、記入させ回収した。生徒は調査に同意することができなければ辞退し、その旨を質問紙の表紙に示すことができた。対象校は沖縄全6校区からそれぞれの在学者数に応じて14校、計13校を選出し、各校の各学年から抽出された12学級に在籍する生徒2,660名を対象とした。対象のうち、2,482名から質問紙を回収したが、分析には調査辞退者(5名)および抑うつ尺度に欠損値があった者を除いた2,027名(男子1,030名、女子997名)を用いた。分析対象の属性割合は平成10年度沖縄県学校基本調査報告書とほぼ一致している。抑うつ症状はCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale(以下CES-D)を用いて測定した。心理社会的要因として、生活ストレッサー(高倉らのAdolescent Daily Events Scale)、セルフエスティーム(RosenbergS-E Scale)、統制感(鎌原らのLOC尺度)、ソーシャルサポート(岡安らのThe Scale of Expectancy for Social Support中学生版)、そして、健康習慣を用いて評価した。これらの尺度のα係数は.51.93の範囲であった。さらに、人口統計学的変数として、性別、学年、居住地域、通学方法、部活動参加、通塾、親の学歴を質問した。

結果

人口統計学的変数ごとにCES-D平均得点の差の検定をしたところ、性、学年、部活動参加、通塾に有意差が認められ、女子、2年生、体育系部活動に参加していない者、塾に通っていない者の抑うつ症状が高い傾向にあった。次いで、心理社会的要因の代表値について性差を検討したところ、部活動ストレッサーと統制感以外のすべての変数に有意な性差がみられた(p <.05)。

人口統計学的変数を調整した後の抑うつ症状に対する心理社会的要因の関連性と説明力を示すために、3ステップからなる階層的重回帰分析を男女別に行った(表)。男子の場合、人口統計学的変数は有意な決定係数(R2=.02)を示し、学年と部活動参加が抑うつ症状と関連していた。次いで、生活ストレッサーの決定係数に有意な増分がみられ(ΔR2=.19)、学業ストレッサー、家族ストレッサー、友人関係ストレッサーは抑うつ症状と有意な正の関連を示した。さらに、他の心理社会的要因を投入したところ、決定係数に有意な増分がみられ(ΔR2=.19)、健康習慣、セルフエスティーム、内的統制感、ソーシャルサポートは抑うつ症状と有意な負の関連を示した。女子の場合、人口統計学的変数に有意な説明力はみられなかった(p =.21)。生活ストレッサーの決定係数には有意な増分がみられ(ΔR2=.31)、学業ストレッサー、教師ストレッサー、家族ストレッサー、友人関係ストレッサーが抑うつ症状と有意な正の関連を示した。第3ステップの決定係数にも有意な増分がみられ(ΔR2=.15)、健康習慣、セルフエスティーム、内的統制感、ソーシャルサポートは抑うつ症状と有意な負の関連を示した。

考察

βの向きから、生活ストレッサーは抑うつ増強要因、健康習慣、セルフエスティーム、内的統制感、ソーシャルサポートは抑うつ軽減要因になると思われる。本知見は先行研究で得られた知見とほぼ類似していた。階層的重回帰分析において、男子の第2ステップと第3ステップの説明力が同じであったのに対して、女子の第2ステップは第3ステップに比べて大きな説明力を示したことから、女子の抑うつ症状にとって、生活ストレッサーがかなり大きな影響を及ぼしていることが推察できる。生活ストレッサーを詳細にみていくと、男女とも友人関係ストレッサーが最も強く抑うつに関連していた。また、女子にのみ、教師ストレッサーと抑うつとの間に弱いが有意な関連性がみられたことから、中学生にとって、友達との関係が非常に重要であることがあらためて示され、さらに女子の場合、教師との関係を含んだ学校における対人関係が大きなストレスとなり、抑うつを高めることがうかがえた。

(本研究は平成10年度文部省科学研究費補助金基盤研究(C)(2)課題番号09670403の補助を受けた。)