実験の心得
?.履修目的
農学あるいは工学分野で行われる実験には,大きく研究実験,性能実験,学習実験の3種に分類される。研究実験とはある未知な現象を明らかにするため,モデル実験装置を制作し,それを用い行う実験や,また,数学的モデルを確立し,コンピュータなどを利用し計算を行う数値実験を指す。これらの結果は解析され,新しい理論として確立される。大学や国の試験研究機関,民間会社の研究所で行われている実験の大半は研究実験である。君たちが4年次になり卒業研究として行う実験もおおかたこれに含まれる。性能実験とは製品の機能や性能,品質などが予め設定した条件を満足しているかどうか確認するための実験である。産業界では,製品に対する責任から技術者たちが日常的に行っている。しかし,今回履修する生産システム工学実験で行うのは学習実験で,上記2つのものと目的,内容で異なっている。学習実験は第一に講義で学習した内容を現実に経験し,より深く理解することを目的とする。第二の目的としては将来,研究実験,性能実験を行う際の基本的な知識,技術を習得することである。
学習実験では研究実験などと違い,実験結果があらかじめ教科書や計算により明らかになっていることが多い。しかし,実際に実験を行うと,そのデータは予測されたものと完全に一致しないはずである。この時,でてきたデータをレポートに書くだけでなく,なぜこのような違いが生じたのか,思考を巡らすことにより知識をより一層膨らますことができる。さらにモデルで用いた仮定,数式を誘導する際に仮定した条件などが用いている実験装置の適用範囲内であるのか,装置の運転条件は予測式の適用範囲を超えていないのかなど,懐疑の念を持って考察を始めれば,科学的なものの考え方ができるようになる。例えば,土の比重を求める実験の場合,質量を測るはかりの誤差は測定精度に応じた十分なものなのか,比重びんを湯煎で暖めたがこれによりびんが膨張し体積が大きくなったのではないのか。もし,びんの体積が大きくなったとしてそれが測定値に与える影響はどの程度なのか等々。
学習実験で用いた計測機器などは,将来,卒論研究を進める際に使用するものもある。基本的な測定原理,測定方法,機器の正しい取り扱い方などはしっかりと修得しておきたい。また,実験データの整理のしかた,それに対する検討のしかた,さらに考察の進め方などはそのまま卒業論文の書き方へとつながる。実験レポートを仕上げる過程では将来,技術者として生きていく際の報告書のまとめかた,理科系的なものごとの考え方,進め方を学ぶ上で大切である。また,技術的な基礎だけでなく,危険を避ける用心深さ,注意深い観察力,粘り強く現象を究明していく強靱な精神力も身につけることができるはずである。
?.実験に際しての諸注意
1.自主性と協調性
実験はグループに分けて行う。グループの全員が役割を分担し,協力して行う。全員が各自の責任を積極的に果たすこと。また,協調性を持ち実験が円滑に進行するようにつとめる。自分一人で全てのことを行ったり,自分は何もしないで他人のデータをもらったりしないこと。
2.実験課題
別紙の通りの内容,順序で行う。但し,天候や行事等により若干の変更があるかもしれない。
3.安全
実験装置や計測機器の取り扱いは教官およびTA(ティーチングアシスタント)の指示に従う。その際,自分がけがをしたり,他人にけがをさせたりすることがないようにする。また,装置,機器の破損等が生じないように常に注意を払うこと。
服装は実験内容,実験場所に適したものを着用し,危険がないようにすること。特に高速で運動するものに巻き込まれることがないようにする。
事故などが発生したときは教官の指示に従い,速やかに行動すること。
4.予備学習
実験内容は農学および工学を基本としたものが主体で,専門課程で受ける講義内容に関連している。「生産システム工学実験?」の場合,
「生産システム工学概論」 2年次 前期 ●
「情報処理学入門」 2年次 後期 ○
「圃場機械学」 3年次 後期 ●
「農業エネルギー工学」 3年次 前期 ●
「農業システム工学」 3年次 前期 ●
「情報処理・制御工学」 3年次 後期 ●
「機械工学大意」 2年次 前期 ○
「電気・電子工学概論」 3年次 前期 ○
「農業機械化論」 4年次 前期 ○
「農業機械設計論」 3年次 後期 ○
「コンピュータ製図」 4年次 前期 ○
「応用力学?」 3年次 前期 ○
「土質力学?」 3年次 前期 ○ ●必修科目
「基礎製図」 3年次 後期 ○ ○選択科目
の内容と関連している(その他の科目は「生産システム工学実験?」がカバーする)。未履修のものも含まれるが,本実験では,できる限りその点を補って進めるようにしたい。しかし,実験を行う前の日までに,教科書の実験に関連する箇所を一通り読んでおくことをお願いする。
「応用力学?」および「応用力学?」(「応用力学?」は選択科目には入っていないが)は,数学的,工学的な考え方をする上で基本となる科目である。特に,将来,機械メーカ,土木建設業界で技術者になりたい,また,公務員(技術系)を目指すものにとっては必須である。上記に挙げた科目で「応用力学?」および「応用力学?」以外は,将来,一人で本を買って独学することが可能であるが,数学的,工学的なものの見方は指導者のもとで,過酷な訓練を積まなければ学べない。脳が活発に働いているいまのうちにこそ,学んでおくべき科目だと私は感じる。