泌尿器科学講座紹介

泌尿器科学講座は,臨床に即した研究に重点をおいており,毎日の臨床活動から生ずる疑問に発した新しい治療法の開発や実験的研究を目指している。癌(前立腺癌,腎癌,膀胱癌,精巣癌など),下部尿路機能障害(神経因性膀胱,過活動膀胱,前立腺肥大症,間質性膀胱炎など),尿路感染症,小児泌尿器科,男性更年期障害,EDなど幅広く扱っている。尿路結石,腎不全の病態と治療(透析と移植),膀胱機能と排尿障害などの基礎的臨床的研究に関しては長い期間に培った実績がある。また,手術治療や腎臓移植の際の,ドナー腎摘出術についても,県内唯一,琉球大学では泌尿器腹腔鏡認定医が2名おり,体に負担の少ない腹腔鏡手術を積極的に行っている。特に,癌の中では,最も増加率が高い前立腺癌の研究では,骨転移の機序と腫瘍マーカーと糖鎖研究など新機軸の展開へ向け,準備をしている。

1. 泌尿器系癌における新たなバイオマーカーの探索とそれの生物学的役割に関する研究(松村英理,大城吉則,斎藤誠一): 東北大学との共同研究

泌尿器系癌のなかでも尿路上皮癌や腎癌には,前立腺癌におけるPSAのような臨床的に有用なマーカーが存在しない。われわれは,糖鎖を認識するモノクローナル抗体が,特定の糖蛋白にも反応することを見出したため,これの血清・尿マーカーとしての可能性を研究している。さらに,癌治療への応用を視野に入れ,当該マーカーの悪性形質発現における役割について研究している。

2. 腎移植の臨床的研究(大城吉則,安次嶺聡,斎藤誠一)

末期腎不全患者に対する唯一の根治治療として腎移植術(生体,献腎)を行っている。移植腎の生着率および生存率を向上させるために移植手術の技術の成熟と向上,最適な免疫抑制療法の開発が必要である。特に生体腎移植ではドナーの身的負担を軽減するために腹腔鏡下ドナー腎摘出術を2008年から導入し,良好な成績をおさめている。また,これまで脾臓摘出が必要であった血液型不適合腎移植においては抗CD20モノクローナル抗体を用いた免疫抑制療法で脾臓摘出を行わなくても良好な成績を収めている。また,従来は予後不良とされてきた抗体関連型の拒絶反応に対しても,血漿交換療法,ステロイドパルス療法,IVIg療法,デオキシススパガリンを組み合わせて治療を行い,治療が可能となってきている。

3. 泌尿器科鏡視下手術の技術向上の研究(大城吉則,松村英理,安次嶺聡,斎藤誠一)

近年, あらゆる外科領域において低侵襲の鏡視下手術の導入が行われている。鏡視下手術は開腹手術に比べて患者さんに負担の少ないものの,その手術手技は難易度が高くなっている。琉球大学泌尿器科でも主に副腎腫瘍,腎腫瘍に対して鏡視下手術を行っているが,症例数の増加に伴い技術も向上してきた。最近では術中の血圧や脈拍の変動が激しい開腹手術でも難易度の高い褐色細胞腫や,腫瘍サイズの大きいT2の腎腫瘍に対しても適応を広げている。さらに2008年からはさらに難易度の高い小径腎腫瘍に対する鏡視下腎部分切除も開始している。また,沖縄県で唯一,泌尿器科腹腔鏡下手術技術認定医が2名おり後進の指導および技術の向上の研究を行っている。

4. 転移性腎癌の臨床的研究(大城吉則,町田典子,安次嶺聡,斎藤誠一)

腎癌の唯一の根治的治療は,腎臓に限局した腫瘍の完全な切除(根治的腎摘出術または腎部分切除)のみである。一方,転移を有する腎癌の場合はこれまで免疫療法(インターフェロン療法,IL-2療法)を行われてきたが,奏効率は10%前後で満足のいくものではなかった。近年,諸外国から転移性腎癌に対する分子標的治療薬の良好な治療効果が報告され,本邦でも2008年から分子標的治療薬の使用が可能となってきた。ただ,分子標的治療薬は様々な副作用が報告されており,副作用発現時の投与方法,副作用に対する対処が重要であり,これらについて臨床的研究を行っている。

5. 尿路結石に対する体外衝撃波結石破砕機を用いた治療方法の臨床的検討(大城吉則,斎藤誠一)

体外衝撃波結石破砕術(以下ESWL)は尿路結石に対する非侵襲的な治療法のひとつとして確立されているが,治療効果は他の外科的治療方法に比較して劣ってしまう。そのため1症例(1結石)に対する治療が長期にわたったり,ESWLの施行回数が複数回におよんでしまったりすることは珍しくない。この問題を解決するため,ESWLにて治療した500症例を超える尿路結石患者のデータベースを用いて,患者背景,結石部位・大きさ・成分,発症時期,治療方法等のパラメーターによる統計学的解析により,ESWLを用いた尿路結石の最適の施行方法の臨床的検討を行っている。

6. 前立腺がん造骨性骨転移機序の解明及び治療法に関する検討(町田典子,松村英理,木村太一)

前立腺がんの発生率は本邦においても近年増加傾向が指摘されている。前立腺がんは高率に骨に転移し,骨転移の80%以上において骨硬化像を呈する。骨転移を伴うがん患者の生存期間は長いものの,がんの骨転移は骨破壊により骨痛,病的骨折などの合併症を引き起こし,死亡率にも関係しているため骨転移の予防, 抑制は非常に重要な問題であるといえる。しかし重要な問題にもかかわらず,がんの骨転移の予防ならびに治療に対し満足できるものはない。これは転移巣形成過程におけるがん細胞と骨の相互関係を再現するモデルが存在しないため,がんの骨転移機序が十分に解明されていないことに起因する。ヒト成人骨を移植しヒト化したNOD/SCIDマウスを用いることによって,ヒト前立腺がん細胞がヒト成人骨に転移を起こすという種ならびに臓器特異的転移モデルの開発に成功し,世界的に注目された。本モデルを用いることによって,臨床では困難だったヒト前立腺がん細胞がヒト骨髄に生着した初期から定時的に組織像を観察することができる。また,骨転移巣形成過程におけるヒト前立腺がん細胞とヒト骨芽細胞,破骨細胞,骨髄間質細胞の相互作用,特に破骨細胞の及ぼす影響ならびに前立腺がん細胞が産生するPSAやIGF, TGF-βなどの骨芽細胞や破骨細胞に対する作用に関して検討を進めている。以上を明らかにすることにより前立腺がんの骨転移に対する新しい治療概念を提供できるものと考えられる。

7. 新しい前立腺癌マーカーRM2抗原の前立腺癌組織・血清における発現とRM2抗原発現の意義 (松村英理,町田典子,斎藤誠一)

前立腺特異抗原(PSA: prostate-specific antigen)は,現在前立腺癌の早期発見・早期診断に汎用されているが,特異性・感度に問題があり悪性度を反映しない。このようにPSAは早期診断のマーカーとしての限界を露呈しており,今後,感度や特異度がより高く,悪性度を反映するような新しいバイオマーカーが切に求められている。 われわれが作成したモノクローナル抗体RM2の前立腺癌細胞に対する反応レベルは悪性度(Gleason pattern)を反映して高いが,良性腺管にはRM2が反映しないか,反応レベルが極めて低いことが判明した。後に,モノクローナル抗体RM2により認識される糖蛋白はハプトグロビンベータ鎖と判明した。モノクローナル抗体RM2により認識されるハプトグロビンベータ鎖の検出を多数症例の前立腺癌患者および良性前立腺疾患患者血清・尿で検討するとともに,前立腺癌治療後の血清・尿レベルの変化もみることにより前立腺癌マーカーとしての臨床的有用性を明らかにすることを目的としてする。前立腺癌組織におけるハプトグロビンベータ鎖の発現レベルも調査する。

8. 尿路結石の研究(Woottisin S)

尿路結石の80%は,蓚酸カルシウム含有結石である。尿中の蓚酸が結石形成に最も重要な役割を果たしている。HPCEを用いたコンピュータ制御の全自動分析装置を用いて,多量の尿検体を分析している。ラットにおけるシュウ酸の消化管での吸収,トランスポータ,シュウ酸前駆物質投与による代謝実験など行い,尿中の結石形成因子の測定とその物質の過飽和状態の測定により結石形成のリスクファクターの解析を行っている。