第3章. 無機化学実験の安全ガイドライン
無機化学実験を受講する上での諸注意
第1節 安全に関する一般的諸注意
本実験では様々な薬品類、ガラス器具、測定機器を使います。化学試薬の多くは人体に有害であり、中には操作方法の誤りや計量ミスなどの不注意から重大な事故を引き起こすものも含まれています。慎重に作業をすすめ、事故を未然に防ぐことを最優先に実験を行なって下さい。そのためには、使用する試薬についての知識に加えて、器具類や装置類の適切な使用法についても熟知しておく必要があります。もし事故が起きた場合でも、速やかに適切に対処する事で被害を最小限におさえる事を心掛けて下さい。
実験を始める前に以下の注意事項を熟読し、事故を起さないよう充分注意して下さい。また、体調が悪い時に無理に実験を行なうと注意力の低下を招き、重大事故の原因になりかねません。気分が悪い時は必ず実験前に教官に申し出て下さい。
第2節 実験を始める前に
使用する薬品についての予備知識
無機化学実験では強酸性物質や強塩基性物質の他、引火性有機溶剤、刺激性有機薬品等を取り扱います。その多くは人体に有毒であり、毒物、劇物指定の薬品も含まれています。実験に入る前に、使用する薬品類の危険度(引火性、発火性、爆発性等)および性質(融点、沸点、腐食性、潮解性、揮発性等)についてあらかじめ調べて、実験ノートに記述して下さい。一般的な薬品類については、化学辞典等をもちいることで薬品の性質をあらかじめ調べる事ができます。特殊な化学薬品に関しては、実験前に教官から適宜注意がありますので、聞き漏らさないよう注意して下さい。
化学薬品情報に関する文献
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日本化学会編、化学安全ガイド、丸善(1999).
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化学物質安全情報研究会編, 化学物質安全性データブック, オーム社(1999).
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日本化学会編, 改訂4版 化学便覧 基礎編, 丸善(1993). ほか
第3節 実験中の一般的注意事項
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実験室では飲食行為を禁ずる。また飲食物を持ち込んでもいけない。
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実験台の上には実験に必要な器具類や筆記用具以外はおいてはならない。
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大声でふざけあったり、はしゃいだりすると事故の原因になるので厳禁。
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携帯電話(メール)の使用は注意力の低下を招くため実験室では電源を切る。または持ち込まない。
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実験室では必ず白衣を着用する事。室内では専用の上履きを使用する事(スリッパ、サンダル類の使用を認めない)。
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合成実験では必ず保護メガネをかけること。保護メガネは上下左右から試薬が目に入らないようなゴーグルタイプの物が望ましい。
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長髪の場合、反応容器の中に毛髪が入ったり炎にふれて火傷の原因になることがあるので、髪を束ねるなどの対策を講じる。
第4節 薬品の特性による注意
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酸性物質(塩酸、硝酸、硫酸等): 濃硫酸を水で希釈するときには発熱をともなうので、必ず水に濃硫酸を注ぐ。塩酸、硝酸は揮発性なので必ずドラフト内で扱う。
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塩基性物質(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アミン類等):水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを水に溶解する場合、発熱をともなうので注意する。それらの濃厚水溶液を多量に調製する場合、水や氷を用いて冷やしながら行う。アンモニアやアミン類は刺激臭が強いので、必ずドラフト内で扱うこと。なお、塩基性水溶液はタンパク質を侵し、特に目に入ると最悪の場合失明の恐れもあるので、取り扱いの際は必ず保護メガネをかけること。
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毒物、劇薬、特定化学物質、危険物の取り扱い: 本実験で使用する化学薬品のうち、以下の薬品は人体に有毒であったり、または爆発・発火の危険がある事から法律で毒物、劇物(毒物、劇物取締法)、特定化学物質(労働安全衛生法)、危険物(消防法)に指定されています。取り扱いには特に注意して下さい。
・劇物:塩酸、硫酸、硝酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム、メタノール、塩化第一銅、
硫酸銅5水和物、塩化第二銅二水和物、過酸化水素
・特定化学物質:アンモニア、塩化水素、硝酸、硫酸
・危険物:エタノール、メタノール、n,n-ジエチルエチレンジアミン、ジエチルエーテル、
エチレンジアミン無水和物、ジ-n-ブチルアミン、チタンテトライソプロポキシド
第5節 実験後の注意事項
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使用した試薬類は必ず所定の位置へ戻し、それを確認する。薬さじに付着した試薬は必要に応じて水で洗浄し、重金属を含む場合は廃液用ポリタンクへ回収する。
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実験終了後は使用した器具の片づけの他、ドラフトチャンバーや実験台およびその周囲の清掃を行ない、教官へ報告する(了解を得て解散)。
第6節 廃棄物の処理
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廃液:重金属を含まない酸、アルカリ水溶液は、中和して(pH試験紙でpH6
〜8を確認)流し台に廃棄して良い。
重金属を含む溶液の場合は、黄色帯のポリタンクへ回収する。絶対に流し台へ流してはならない。
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固形廃棄物: ろ紙からはぎ取って専用容器へ回収する。ろ紙にこびりついている場合は、ろ紙ごと専用容器へ回収する。
第7節 事故への対応
実験では事故を未然に防ぐ事が最も大切ですが、もし事故が起きた場合には速やかに適切に対処する事で被害を最小限におさえる事ができます。どんな事故でも、ただちに教官に通知してください。
無機化学実験でもっとも起こり得る事故は、薬品による中毒、火災、ガラス器具の破損による怪我などです。以下に事故時の対処法を記すので、緊急時に備え熟読してください。
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薬品が目に入ったとき: 可能な限り速やかに、実験室に備付けの洗顔用噴水で15分以上目を洗浄する。障害の程度に関わらず、直ちに眼科で診察・治療を受ける。
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薬品を吸引してしまった時: 悪臭、異臭が原因で気分が悪くなった場合は、たいていの場合はしばらく安静にするだけで回復する。症状の改善が見られない場合は、病院で診察・治療をうける。
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薬品を飲み込んでしまった時: 多量の水を飲み、飲み込んだ試薬をできるだけ嘔吐するようにつとめる。その後、速やかに病院で診察・治療をうける。
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薬品による火災: 周囲でバーナーを使用していればすぐに炎をとめ、元栓を閉じる。近くに可燃性、引火性の有機溶媒もしくはそれを使った反応溶液があれば火元から遠ざける。フラスコやビーカー内の小さな火災は大ビーカーや時計皿、濡れ雑巾などでおおえばすぐに鎮火する。それでも鎮火せず火種が大きくなるようであれば、備付けの消化器を使って消化する。
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衣服の火災: 実験室に備付けの緊急用シャワーで消化する。やけどの程度により、病院で診察・治療をうける。
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切り傷: ガラス器具の破損によって生じた切り傷は、まず切り傷を水で良く洗い、ガラスの破片がささったままであれば注意深くそれを取り除く。消毒薬(同じフロアにある化学系事務室に常備)で消毒し、傷が深い場合や、なかなか止血しない場合は病院で診察・治療してもらう。
実際に行う各実験テーマの操作等に関して、さらに詳細な説明や安全上の注意を実験書に記載しているので、熟読して実験に望むこと。
高圧ガスを取り扱うための国家資格
― 高圧ガス製造保安責任者・高圧ガス販売主任者 ―
@ 資格の内容:高圧ガスによる災害を未然に防止し、公共の安全を守るための資格。高圧ガス製造の従事に必要な資格が「高圧ガス製造保安責任者」、販売業務の従事に必要な資格が「高圧ガス販売主任者(第二種販売主任者)」であり、いずれも国家資格。
「高圧ガス製造保安責任者」の免状は9種類(以下では“責任者免状”を略す)。1)甲種化学、2)甲種機械、3)乙種化学、4)乙種機械、5)丙種化学(液化石油ガス)、6)丙種化学(特別試験科目)、7)第一種冷凍機械、8)第二種冷凍機械、9)第三種冷凍機械。免状の種類に応じて、職務を行うことができる高圧ガスの種類や製造施設の規模に制限が設けられている場合もある。
「高圧ガス販売主任者」の免状は1)第一種販売主任者免状、2)第二種販売主任者免状で、免状の種類により職務を行うことができる高圧ガスの種類と販売施設に制限がある。
石油化学コンビナートやLPガス充填事業所、LPガススタンドなどのLPガス製造事業所や販売事業所などで役に立つ資格。
A 試験・申し込みの主な日程
願書受付:8月下旬〜9月上旬(インターネット受付と書面受付によって異なる)
試験:11月頃、受験料:試験の種類や願書受付方法によって異なる。
B
試験地:甲種化学、甲種機械及び第一種冷凍機械は沖縄県のほか経済産業局単位、その他の種類は全国都道府県単位で実施。
C
申し込み先、問い合わせ先:
・高圧ガス保安協会 http://www.khk.or.jp/
・(社)沖縄県高圧ガス保安協会 TEL 098−858−9562
http://www.okinawakhk.or.jp/index.shtml
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関連授業科目:熱力学、化学全般
E 備考:年齢、学歴、経験に関係なく受験できる。