多文化理解への学習プログラム開発をめざして
                               −地域の窓から世界を見る−
                               (教員教育とカリキュラム開発)


                               辻 雄 二(琉球大学教育学部)

                                                        

1.プログラム実施の趣旨


  80年代に進展した地球規模での国際化は、21世紀を迎えた今日更なる広がりを見せている。そして今、人類は20世紀が生んだ

無惨な対立構造を根本的な解決へと導き、全ての人類と自然が共存と共生の道へと向かうべく、新たな施策が求められている。特

に人類の近未来の創造に関わる教育のあり方は重要な問題であり、異なる社会・文化システムを移動体験する人々の増加に伴い、

多様な学習者のレディネスとニーズに応えうる新たな教育・学習システムを確立していかねばならない。

  本プログラムはこのような課題に対し、世界市民として地球的視野に立って行動する人材の育成と新たな教育・学習システムを確

立するために、個別具体的な地域文化の中に見られる文化事象に注目し観察調査することで、そこに見られる多元的な価値観の

認識に努め、人類普遍的な文化活動としての教育と人の生涯を通じての願いである学習にたいする理解を深めることで、「正義・自

由・平和のための人類の教育」の実現にむけた具体的学習プログラム開発への道筋を探ることを目的とした。

 

2.プログラム実施により、得られた成果


  戦後の沖縄は米軍基地駐留にともない様々な問題を抱えてきたが、中でもアメラジアンと呼ばれる国際児をはじめ、帰国子女、

移民3世4世といった日本語非母語児童の人権・教育問題という現実的な課題を抱え、可及的速やかな解決策が求められてい

る。本プログラムはこのような現実的課題への対応も視野におき、多言語・多文化社会である中国雲南省において、少数民族の

具体的な生活の営みに見られる文化事象に注目し、新たなカリキュラム開発の可能性を追求した。これによって参加者個々人が

具体的な学習支援の場において必要とされる問題解決能力と指導力を養う上で貴重な経験となった。

  また沖縄は、歴史的地理的条件において「交易立国」としての道を歩んだ経験を有し、世界的な「ウチナンチュ(沖縄人)」ネット

ワークをもつ。この広く世界に向かって開き築かれた沖縄の文化は、多様な社会・文化システムとの交流の体験によって育まれてきた

ものである。全人類規模でのコミュニケーションが強く求められる今、あらためて沖縄の経験から学ぶべきことは多いと考える。そのこと

を参加者全員が沖縄紹介資料を作成することで理解された。さらに、沖縄と歴史的に文化交流のあった中国に赴き沖縄文化を紹

介するに留まらず、自らの文化とは異なる文化事象に触れ、調査研究を共同でおこない、その比較検討がなされたことで、現地参

加者を含む双方にとってかけがいのない経験となり、今後一層の交流の促進と友好の成果が期待されよう。

 

3.今後の課題


  参加者個々人は本プログラムで得た経験を活かし、学習者の視点から多様なニーズに応えうる新たな学習ストラテジー、指導法、

教材開発等の追求が求められる。それによって異文化接触によって生じるコミュニケーションギャップ等の原因を探ることを通し、多言

語・多文化社会における新たな学習環境と学習プログラムを地域社会との連携の中に構築していかねばならない。

  また、文化事象に触れそれを理解する際、個々人が有する自文化との比較を通して対象を捉えがちであるが、無意識に同質性

と異質性とに分ける理解の仕方に留まるのではなく、対象となる文化事象に内包される多様な事実に注目することが重要である。そ

れは文化事象が自然や地理的条件、あるいは歴史や文化的条件によって変容し、それぞれが連関しあって成り立ち、いずれも人間

が生きるために最大限の工夫を凝らした創造物であるという認識をせねばならないということである。このような文化理解の前提ともな

る思考にそって、今後更なる調査研究と具体的な教材開発を目指さねばならない。

 

                                   (東巴文字で夢を意味する)

 

           

                                

back   next