数年前から,私は線形代数をうまく応用したものを集め始めた. ここにその成果の収集品をお届けする. これらの応用例のほとんどは,私が数学的に興味を持つ主な 分野――組合せ論,幾何学,そして計算機科学――に属するものだ. 大部分は定理を証明するというところで数学的だが, 物事を計算する賢い方法,つまりアルゴリズムを扱うものもある. そこに線形代数的手法が,たいていの場合,意表を突いて現れる.

ある時点から私はこの収集品を「ミニチュア」とよびはじめた. そしてミニチュアとよべる基準を決めた. それはひとつの数学的結果について,背景やその他もろもろあわせても 解説全体が(A4版で) 4ページに収まるというものだ. このルールはまったく恣意的なもので,もっともルールというのはだいたいそんなものだが, しかしこれには理にかなった面もある.つまりこの分量は普通の90分授業にちょうどよく, これは私が教えることになったいくつかの大学の標準的な一コマ分なのだ. このルールにはもちろん例外もあり,どうしても省略する気になれなくて 6ページのミニチュアになったものなどがある.

この収集は明らかにいつまでも続けられたわけだが, 33という数はいい位にたっぷりで,よい止め時になると考えた.

ここにお見せするものは,主に講義する人を念頭においているが (私はほとんどすべての作品をいろいろな機会に講義してきた), 魅力的な数学的アイデアに興味を持ち,時には じっくり考えることのできる学生のためでもある. 各素材はうまくいけばそのまま授業に使えるし,読者に委ねた詳細のどこにも 怪物などいないはずだ.

本書を読むにあたって仮定したのは,線形代数の基礎,多項式に少し慣れていること, グラフ理論と幾何に関するいくらかの術語である.ミニチュアによって難易度はまちまちだが, 大まかには,最も取り組みやすいと個人的に思うものから,よりきつい内容の順に並べてある.

私は各ミニチュアが本質的に自己完結するようにつとめた. ちゃんとした学部学生の知識があれば,ミニチュア24から読み始めることもできる. これはある意味で典型的な数学の教科書に反している. 普通なら内容は徐々に発展していくから,123ページに書いてあることを 理解したければ,通常その前の122ページ分か,またはうまくいってもどこか適当な38ページ分を 理解しないといけないものだ.

もちろん,この反・教科書的構造のために退屈な繰り返しが生じ, さらにおそらくもっと 深刻なことだが,扱える数学的な複雑さや精細さは制限される. 他方,この構造にも有利な点がきっとある. 私は何冊かの教科書を123ページよりだいぶ前の方で放り出した. 細切れの時間で読んでいては重要な定義を覚えていられないと悟ったからだ(小さな子どもたち と一緒にいる読者の方には何の話をしているのかわかるでしょう).

いくつかのミニチュアを読んだ後で,読者はそこに現れる証明に,ある共通の基本形を見抜くかもしれない. これらについて詳細に議論してもよかったが,線形代数的手法の一般論は扱わないことにした. 本書にオリジナルな話題はなく,いくつかの例はかなりよく知られていて,たくさんの 本や論文に出てくる(本書以外の私の本で扱ったものもある).全般的な参考文献はあとで 列記する.オリジナルの情報源を私が見つけられたものについては,それも参考文献につけ加えて ある.しかしながら,歴史的な注釈は最小限に留め,アイデアの起源をとことん追跡することは しなかった.

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