国立大学の法人化に反対する決議

 文部科学省の「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」は、本年3月「最終報告」を決定し、これを受けて、国立大学協会は、4月19日の臨時総会において、同報告を基本的に受け入れる決定を行った。
 国立大学の法人化は、そもそも高等教育・研究の発展に資するなど、内発的動機から提起されたものではなく、行財政改革の目玉のひとつとして急速にクローズアップされてきた計画である。その主要な狙いは、教育・研究の現場に競争原理を全面的に持ち込むとともに、大学・研究機関を国家戦略・企業利益優先の研究・人材育成に直接奉仕させる機関とすることを露骨に意図している
 こうした路線を受けて、すでに、国立大学の統合・再編や教員養成系学部のスクラップが進行しているが、これは地域の初等・中等教育の体制に重大な悪影響を及ぼすとともに、「一県一大学の原則」を放棄し、教育機会の提供、地域の文化や産業への貢献などを大きく後退させるものである。また、各大学は生き残りをかけて「個性化」を競い合っているが、そのことによって、時流に受け入れられやすい分野や手法の研究のみが重視され、また、それぞれの地域は、産業界や国の要求に合致する「個性」しか持ち得なくなることが強く懸念される。
 さらに、大学の重点化政策や、主管官庁や外部の干渉を強く受ける運営体制の導入、学長権限の飛躍的強化によって、公立・市立大学も含めた日本の大学全体の自治、研究・教育の自由が侵害されようとしている。このことに関連して、法人化後の教職員の身分が「非公務員型」となったことは重大である。国立大学の教職員は国家公務員および教育公務員としての身分保障を受けている。教育公務員特例法における身分保障規定は、大学における学問・思想の自由を保障する上で基軸的で憲法規定の具体化としての意味を持つ。この基本的な法制度が私学をも含む大学教員の地位を規定してきた。したがって、国立大学の教員が適用対象から外れることの影響はきわめて大きく、大学の教職員のみならずわが国の教育・研究労働者全体にとっての大きな問題である。それによって、大学自治の基盤が著しく脆弱になることは、健全な批判精神を持った教育・研究の存続を危うくするものであり、日本の未来に著しい禍根を残すことになろう。
 何よりも重大なことは、こうした高等教育・研究体制の抜本的な改変を、主権者国民とくに当事者である学生・生徒やその家族などに十分説明し、その意見を聞く機会のないままに推進されていることである。例えば、法人化により国立大学の学費が大幅に値上がりする可能性がある。また、日本育英会も再編が予定されており、家庭の経済状況によらず、最低限の負担で高等教育をいけられる権利が維持できるかは重大な岐路にある。大学を、競争社会において有利となる高等教育という「サービス」を行う機関と捉え、学生をその受益者または消費者と見なして費用負担を強いることは、教育の本質を歪める、根本的な誤りである。このような弊害が、公私立大学にも波及して、教育の機会均等や国民の教育を受ける権利の侵害という重大な問題を生じることが懸念される。
 とくに、歴史的な経緯によって、県民の所得水準が低く、強大な地場産業がなく、また、離島県でもある沖縄県において、国民の教育権を保障するためには、低額の学費によって修学できる総合大学を、国の責任において維持することが必須である。
 今年は沖縄復帰30年の年に当たるが、沖縄県民は、日本国憲法を渇望し、人間らしいくらしを実現するために復帰運動に取り組み、それを実現したのであった。いま、その憲法はないがしろにされ、平和原則ばかりでなく、教育や学問の権利さえもが、踏みにじられようとしていることは、到底黙過できない。
 日本科学者会議沖縄支部は、国立大学の法人化を主柱とする、教育研究への悪しき競争原理の導入、国家統制の強化に反対し、財政基盤の抜本的強化による国民のための自主的な大学づくりへと、政策が転換されるよう求めるものである。

以上決議する。


2002年5月23日
日本科学者会議沖縄支部


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