「都市に対する市民の誇り」を表すシビックプライド。このシビックプライドを育むためには、まちを楽しくするアイデアによって「雰囲気の変化」を引き起こすことが重要である。この変化は、誰かに頼まれて引き起こそうと努めるのではなく、そのまちならではの気分を、自分を通して表現し共有することで引き起こされる。
フォントを通して、まちのアイデンティティを理解してもらおうと取り組んだ事例が「都市フォント」だ。数多く存在するメディアに一貫している要素の文字。その文字に、まちらしさ・地域性を取り入れることで、市民はもちろん観光客にも、明確で一貫性を持ったアイデンティティを共有することができる。
一方で、ヒッコリーはロゴやグッズを利用している。新しい魅力を創作するのではなく、今あるものを客観的に捉え、まち「らしさ」として素直に魅力を表現する。地元ならではの和やかな生活に楽しみを付加しようとする行動は周囲の人々を巻き込む力を持つ。
まちとのかかわりを表現する方法は多様であるが、その根底にはシビックプライドがある。個人の利益追求ではなく、まちを良くしたいというパブリックマインドのもと、多様な表現は展開される。
私はこれまで、生まれ育った沖縄を大事に思っていて、うちなーんちゅであることに誇りを持っていたが、まちの楽しさを表現しようする行動を起こしていなかったことに気づけた。
沖縄の良さは、もちろん多くの人に知ってもらいたいし、経済面で考えても沖縄を守るためには観光客の存在が欠かせない。そうは言っても、自分一人でどうにかなるものではないと「まちづくり」に気おくれしていた部分があった。しかし、今回の「頼まれていないのにやる」を読んでみて、自分なりにまちの良さを表現することが、周りに影響を与え変化をもたらせる可能性があると知り、まちづくりをより身近に感じるようになった。
沖縄へのシビックプライドをもつ一員として、楽しさを表現する方法を、授業を通して探っていきたい。
「まちにメッセージをこめてみる」では、建築や公共交通を通して、まちの空間をデザインすることで、「自分たちの場所」を体験し、シビックプライドを育む試みが紹介されている。
「わいわい!!コンテナ」プロジェクトは、青空駐車場や遊休地という空地をデザインすることで、商業集積地の中でも自由に使える「僕たちの場所」を提供し、それが地域の人にとって思い出の場所となっている。このプロジェクトでは、持続的にまちに愛着を持ってもらう目的で、できるだけ市民の手で作り運営することを心がけ、これによって市民一人一人のまちづくりの意識も高まっている。
富山ライトレールのトータルデザインは、富山ライトレールに関係する、車両、電停、VI、市民参加をデザインすることで、デザイナーだけでなく市民も巻き込んで富山の景観を想像し、県内だけでなく全国的にも注目されるようになった。少ない予算の中で、市民や地元企業の協力を促し、デザインデリバリーの仕掛けに参画してもらうことで、市民も自分たちのまちに誇りをもつようになっている。
両者に共通するのが、市民に対してまちづくりへの参加を呼び掛けている点にある。また、建物や乗り物のデザインは効果を長期的なものにできるという利点があり、次の世代にも引き継がれるまちづくりがなされている。
都市や社会の変化が激しい現代において、懐かしい場所が無くなったり、地元らしさを見失ったりすることが起きていて、「市民を巻き込んだ空間づくり」が持続的なまちづくりのために必要となっていることが分かった。
沖縄に置き換えた時、電車はないものの、まちを走るバスやタクシーが統一感を持って沖縄らしさをまとっていたら、観光客だけでなく、地元の人も乗り物を見るだけでわくわくすると思った。また、商業集積地に空地が増えている現象は国際通りでも見られると思った。地元民からすると、国際通りへ行くのは多少気合がいると思う。そこで、空地をうまく利用し、気軽に立ち寄れる商店街にすることが出来れば、より県民の温かさを感じることが出来る観光名所になりそうと思った。
「人をまちに巻き込む」では、イベントを通して、まちの空間をデザインすることで、まちの「らしさ」を体験し、自分のまちを再発見させる取り組みが紹介されている。
「水都大阪フェス」は、人が近づかなくなった河川で、イベントを通して環境を整えることで、参加者がそれぞれの楽しみ方を共有し、まちをつなぐ水辺を再評価する。それによって生活の舞台として認識してもらう出会いの場が生み出されている。このプロジェクトは、「パートナーズ」と「水と光のまちづくり推進会議」、「オーソリティ」が協力することによって「大きなまちづくり」を果たし、それらが策定した戦略のもと市民による「小さなまちづくり」が展開されている。
「クラフトフェアまつもと」や「工芸の五月」は、元々のまちの文化的価値を活かしながら、イベントという形でクラフトマンを正式に受け入れることで、観光客も集める「工芸のまち」というブランドを磨いている。イベントの主催は、官民の協働を促し交通改善の取り組みを開始させたり、市民が周知することで後々新たなイベントを生み出したりするというまちづくりの良い循環が生まれている。
イベントという遊びのフィルターを通して、「町の課題を解決したい」「交通問題を解決したい」「自由にまちを楽しめるようにしたい」という、それぞれ違った立場からの課題が改善に向かって動き出すことがあることが分かった。
もしも沖縄で日本、世界から集まるイベントが行われるとしたら、沖縄の交通問題も解決に向けて動くかもしれないと感じた。現在でも渋滞が問題となっている沖縄の課題として中部・北部の公共交通機関が乏しいことが挙げられる。そこで、県外の多くの人から注目されるイベントが主催されると、市民、官民も「イベントのため」という意識をもって、LRTの整備に賛同したり、市民の意識も車依存から変化したりするかもしれないと思った。