読書と日々の記録2000.05上
[←前の月]  [今月後半→] /  [目次'00] /   [ホーム]
このページについて

 

■読書記録: 12日『自己表現力の教室』 8日『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』 4日『マインド・ウォッチング』
■日々記録: 10日しごとにっきをつけ始める 2日今後の方針について

 

■『自己表現力の教室−大学で教える「話し方」「書き方」−』(荒木晶子・向後千春・筒井洋一 2000 情報センター出版局 \1300)
2000/05/12(金)
〜秘技・メタディスコース削りの術〜

 「話す力」がつく最強最短プログラム(Part 1),「書く力」がつく最強最短プログラム(Part 2)とプレゼン(Part 3)の3部からなる本。自慢ではないが,現在私は,「話す」にも「書く」にも問題を抱えている。そこで,私の問題に,本書がどの程度どのように答えてくれるかを中心に見てみた。本書は「大学で教える」内容だから,正統的な使い方ではないが。

 まずは話す力。大学で講義をするようになってから8年半がたつが,私の問題は「聴衆を見ながら話せない」ことである。あがっているわけでも視線恐怖でもない。話し始めはいいのだが,話が興に乗ってくると,喋りながら頭の中で「あ,あれも話したい。この話も関係があるな」とアレコレ思考が広がる。このこと自体は,話を展開する上で役に立つことも多いのだが,そういう状態で聴衆が目に入ると,そちらにフッと気を取られたすきに話すことを忘れてしまって,「えっと,今何を言おうとしてたんだっけ」となってしまう。どうやら,スピーチ用の記憶バッファが小さいのだろう。あるいは,話そうとすることが整理されていないのだろう。まあ,準備不足といえばそれまでだけど。

 聴衆に視線を向けない人に対して,本書では何と言っているか。

 聴衆をしっかり見ないから,話を聞いていてくれている人たちの反応がわからず,ますます不安になるのである(p.53)。ううむ。私の場合は,聴衆を見ないから不安になるのではなくて,聴衆を見るから忘れるんだが。話しているときに,「どこを見たらいいのかわからない」という人がいるが,それは,まだしっかりと落ち着いていないからだ(p.74)。ううむ。これも該当しないようだ。人前で話したりスピーチをするときは,目の前にいて自分の話を聞いてくれている人たちに,ずっと自分の気持ちを向けつづけるのである(p.55)。

 ・・・なるほど,どうやら本書の「話し方」編は,学生などのように,あまり人前で話したことがない人向けに書かれているようだ。苦手意識を克服し,主に気持ちの持ち方方面から,話すことに慣れるようにする。確かに,苦手意識から尻込みしているような人への第一歩としては,悪くないかもしれない。

 続いて書く力。私の問題点は,去年の12月3日に書いたように,ついついダラダラと長くなってしまうことだ。5ヶ月たった現在でも,この記録がちっとも要領よくまとまらない。これについては,本書では次のような説明があった。

 「文章を書いているとつい長くなってしまう」という人がたまにいる。こういう人の文章は,「自分はこの文章をこういう気持ちで書いていて,こんな風に読んでほしいのだ」という説明(メタ・ディスコース)が多い(p.154)。そして本書には,冗長な文章と,そこからメタ・ディスコースを削った例が挙げられている。これならなんとかできそうだ。メタ・ディスコースをすべて削った文章は,素っ気ない。素っ気ないけれども訴える力は強い。なんの躊躇もなく中心的な問題に切り込んでいく小気味よさがある(p.156)。確かに,ちはるさんのWeb日記はそんな感じだなぁ。

 「書き方」編ではこのように,人気日記書きであるちはるさんの日記書きの秘訣を公開しているようなところがある。それ以外にも,もう少し長く筋道の通った文章を書くためのイメージマップ・構想マップ・ノンストップライティング(p.192-198)という方法が紹介されていたり,集中力が続かないときの乗り切り方(p.144)があったりして興味深い。

 これなら今日の日記書きにも,明日の論文書きにも使えそうだ。...と思ってさっそく,メタ・ディスコース削りや,5段落のサンドイッチ型(p.162)などを意識して書いたのが前回の日記。確かに短くはなった。ただ,力強く小気味よいか,というと...まだまだかなぁ。

 

■しごとにっきをつけ始める
2000/05/10(水)

 4月までに予定していた仕事が一段落した。5月からは新しい仕事に着手。今度の仕事は,3ヶ月程度で仕上げる予定だ。しかし,慣れたタイプの仕事とは違うので,ペースをつかむのに苦労しそう。それで,仕事日記をつけ始めることにした。

 HTML文書で作っているが,Web上にアップはしない。ごく個人的な内容なので。自分のハードディスク上から参照するだけだ。でもこうやって,やるべきことをチェックしやすくし,やったことを記録しておくと,けっこう仕事がはかどる。今のところ,自分で決めたノルマをちゃんと達成できている。それに,次はなにするんだっけ,と迷うこともない。

 その上,パーソナルな文書にもHTML(ハイパーテキスト言語)を使う利点が実感できた。簡単にリストが作れる。それに,あちこちに散らばっている関連ファイルは,リンクを貼っておけば,すぐに参照できる。以前エディタ上に仕事日記をつけたことはあるが,それに比べて格段に便利であることが分かった。

 ただ,一つだけ心配なことがある。これまでの経験で言うと私は,一つのスケジュール管理法が長続きしないのだ。本格的なスケジュール管理ソフトを使ったこともある。オーソドックスな手帳も使った。一時は超整理手帳にも凝った。はじめのうちは,それを使い始めることで,確実に仕事の能率がアップする。しかし数ヶ月も経つと,何だかソフトや手帳に仕事を「させられている」気分になってしまうのだ。主体性が感じられなくなるというか,全体像を把握せずに,黙々と目の前の仕事リストを消化しているというか。もちろん仕事リストを作ったのは自分なんだけど。

 一番最後に継続的な業務日誌を作ったのは,去年の7月から12月。当時気に入っていたアウトラインプロセッサで作っていた。だんだん使わなくなり,けっきょく半年弱で中断している。別に大した量を書いているわけではないのにね。今回はいちおう,3ヶ月という期間限定なので,なんとか乗り切れるのでは,と思っている。それにしても,誰か,簡単で便利で長続きする,いいスケジュール管理術,教えてくれないかなぁ。

 

■『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(遥洋子 2000 筑摩書房 \1400)
2000/05/08(月)
〜遥流トポイ・カタログ〜

 ようやく読んだ。日記猿人界(の一部)で話題になっていたのは,もう2ヶ月も前のことだ。

 私は,素直に面白かった。その面白さは,幕の内弁当的な面白さだ。いろいろな具が入っており,それが食べやすく(分かりやすく)味付けされているからだ。具は,大きく分けると,エッセイ+フェミニズム入門+ケンカの仕方だろうか。メインディッシュはエッセイ部分。上野千鶴子氏を知り,上野ゼミを知り,東大生を知り,さらには,遥洋子を知り,芸能界の裏側(テレビに映らない部分)を垣間見ることができる。フェミニズム社会学の入門的な部分は,試食品というか,ほんの入り口だけである。社会学的な文章がところどころに挟み込まれている程度なので,きちんと勉強するための入門書にはならないだろう。

 おそらく著者が一番重視していると思われるのが,本書のタイトルにもある「ケンカ(議論)の仕方」の部分。これについては,実際に上野氏の受け答えが挙がっており,「ケンカ」を紙上で観戦することができる。ケンカの仕方は,理屈をいくら言われてもイメージは沸かない。しかし実践(実戦)例があると,すぐに応用できそうな気がする。まさに『反論の技術』でいうトポイ・カタログの形になっている。香西氏が言うように,そのケンカの仕方が「面白いと思える」人にとっては,本書は極上の「反論の技術訓練書」になるだろう。

 このケンカの仕方については,本書ではテクニック的な面が協調されている。曰く,「〜で何が悪い」と開き直る(p.219)とか相手の無知探しのための質問(p.220),相手に喋らす。そして破綻を待つための質問(p.221)などである。そればかりだと思われると,私はこういうディスカッションはしたくない(by向後氏)という意見がでてもしょうがない。

 しかし本書末の「ケンカのしかた・十箇条」(p.217-)を見て私は,「これはクリティカルシンキングのしかたになっている部分もある」と思った。批判的思考には"Asking the right questions: A guide to critical thinking(5th ed.) "(Browne & Keeley, 1998, NJ: Prentice Hall:以下A.R.Q.)という良書がある。たとえば遥流「〜で何が悪いと開き直る」は,A.R.Q.で言えば「どんな価値が暗黙に仮定されているか?」を明らかにするクエスチョンだと言える。同様に,遥流「安易に使用している言葉に対し,質問する」は,A.R.Q.では「どの単語や句があいまいか?」というクエスチョンにあたる,という具合である。これらはもちろん,批判的思考のすべてではないが,批判的に思考するための第一歩として,重要な問いである。

 これらの問いの目的について,A.R.Q.には次のように書かれている。「批判的思考は、自分の現在の信念を守るためにも(弱い意味の批判的思考)、評価し変更するためにも(強い意味の批判的思考)使うことができる」 もちろん批判的思考の本来的な意味は,後者を行うことである。その点を忘れなければ,つまり単に自分の信念を守るためだけに使うのでなければ,本書は議論の入門書として,ナカナカの線を行っているのではないかと思う。ただし,その議論から実りのある結論を得るためには,更に発展的な問いや対話が必要。その点については本書では広い知識をもつ,枠を越えた発想をする,勉強する(p.222-230)としか書かれていない。この点は少し残念だが,本書は議論や批判的思考の入門書ではないのだから,まぁしょうがないか。

 

■『マインド・ウォッチング−人間行動学−』(ハンス・アイゼンク&マイケル・アイゼンク 1986 新潮選書 \1500)
2000/05/04(金)
〜心理学研究のダイナミズム〜

 「大学往来」の伊田さん人間関係研究法という授業のシラバスのページで見つけた本。心理学の代表的な研究が20ほど取り上げられ,どのように研究が行われたかを中心に,読み物風にまとめられている。心理学の入門者にとっては,幅広く心理学の研究について知ることができるのでいいかもしれない。でも,目次を見た限りでは,私にとっては聞いたことがある研究ばっかりで,ちょっと退屈そうな本に思えた。

 が,案外そうでもなかった。それは,単に研究を紹介するだけではなく,その研究に対する別解釈や,研究の後日談のようなものが取り上げられているからである(すべての研究についてではないが)。たとえばジンバルドーの有名な「模擬監獄実験」が4章で取り上げられている。この実験は,善良な市民でも看守の役割が与えられると,看守らしく残忍かつ攻撃的になることを示した実験である。しかしこの実験に対して,彼ら(看守役と囚人役の被験者)は,実際の拘置所で看守や囚人がどう行動するか,つよい規定概念を抱いていたので,そうした観念にもとづいて意識的な演技を行ったに過ぎない(p.71)という反論がなされている。それに対してジンバルドーは,役割の端的な「演技」が実験の終わりごろになって主に観察されたという事実(p.72)によって,この反論に再反論をしている。すなわち,もしそれが演技なのであれば,なぜ最初から出なかったのかが説明できない,というわけである。

 われわれ教える側もそうだが,心理学の研究は,ひとつふたつの「決定実験」によってすべてが明らかになったかのように,つい考えがちである。時間的にあまり余裕のない概論の講義や,ページ的にあまり余裕のないテキストなどで,心理学の研究がそのように扱われることは多い。しかし実際には,実験や反論の応酬があり,一定時間かかって,ようやく暫定的な結論に到達するというダイナミズムは必ず存在する。それは,ポパーが言うように,実験によってある命題(仮説)を反証することは論理的に可能だが,確証することは論理的に不可能だからであろう。確証型の実験結果に基づいてある主張がなされ,てもそこには必ず,別の解釈可能性が残ってしまう。したがって原理的には,すべての確証実験の結論は反論可能であり,その結論は暫定的なものに過ぎない。

 もちろん現在流通している心理学的な主張の多くは,ある程度批判にさらされた上で生き延びているわけであるから,その結論が真である可能性は高いものが多いだろう。しかしその可能性の高さが,1回の実験によって達成されたわけではないこと,1回の実験に基づいてなされる主張の多くは,反論や別解釈の余地が残されていること,現在生き延びている心理学的真実も,反論/別解釈可能性から永遠に逃れてしまっているわけではないこと,そういったことを思い出させてくれるという意味で,本書は,よくある心理学の教科書や読み物とは一味違った,良書である。

 

■今後の方針について
2000/05/02(火)

 読書記録も,先月をもって累計記録冊数が100冊を越えた。めでたいめでたい。そこで,とりあえず第1期読書記録が終わったことにし,今月から第2期に突入することにしたい。ナニかが大きく変わるわけじゃないけど。

 といっても何も変えないわけではない。まずは更新頻度。これまでは3日に1回,3で割り切れる日に更新していたが,これを,4日に1回程度に落とす。具体的には,4で割り切れる日+月末または翌月はじめの8回前後,という予定。月末または翌月はじめが入っているのは,これを入れないと,最大7日(28日〜翌4日)空くことになるから。これまでは,月平均13冊程度読んで10冊紹介していたが,これが8冊になるということは,紹介率が8割弱から6割に減ることになる。そうすると自然に,紹介された本は割と高い評価,短評扱い(月末)のみの本はイマイチの評価,ということになるかと思う。

 100冊を区切りにするのは,DOHC(年間百冊読書する会 by 守一雄氏@信州大学)会員だから。といっても,「私もたくさん本を読もう」と思ったら、その時からあなたもDOHCの会員というだけのことなんだけど。でも確かに,多読(&記録)は,得るものが結構あった気がする。これまでのペースは,無理はないけど余裕もないペースだった。これからしばらくは,無理なく余裕あるペースで走ってみたい。

 変更点2番目。これまでは,決めていた更新日に,読書記録以外のことも詰め込んでいた。書く側は3日の余裕があるのでたいした負担ではないのだが,全部読んでいた人がいたとしたら,大変だったと思う。これからは,読書記録以外の日々の記録や思索の記録は,定期更新日以外に更新しようと思っている。ただしこちらは不定期。したりしなかったりで,トータルとしてはこれまでと同程度の更新頻度になるのではないかと思う。もちろんその月の出来事や思ったこと次第だけど。



■このページについて(2000.05)
  • このページは,私が読んだ本の備忘録であると同時に,読んだ本の内容を人に紹介することによって,自分の理解を深める,という目的をもった読書記録のページです。
  • 記録するのは、私が最近読んだ本です。心理学の本が中心で、中でも思考関連のものに興味があります。しかしこれに限らず、私の興味にひっかかった雑多なものを扱う予定です。
  • 更新は、原則的に、4日に1回です。現在のところ、4で割り切れる日+αに更新するようにしています。
  • この定期更新分で取り上げられなかった本は,月末に短評しています。
  • これ以外に、日々の記録や思ったことが入ることもあります。
  • 取り上げた本の著作者様へ:もし私の引用や要約が不適切な場合はご一報ください。修正もしくは削除いたしますので。
  • 読者の方へ:「こんなおもしろい本がある」「こんな本を読んでみたら」「沖縄にこんなお店があるよ」などの情報・ご提案がございましたら、教えてください。
  • この日記は、日記猿人に登録しています。


[←前の月]  [今月後半→] /  [目次'00] /   [ホーム]