この絵教材について

知的障害のある子どもにとって、世界はどのように見えているのか?


 日常生活の場面を絵にしようとした時、私たちが最も考えなければならなかったことは、「知的障害のある子どもがこの世界をどのように解釈しているか」ということでした。例えば、子どもが急に泣き出したり、動かなくなったり、(療育者から見て、「今」とは)全く関係のないことをやり始めたりすることがあります。これらは、知的障害のある子どもの療育に関わっている人(親や教員、デイサービスの職員など)なら、すぐに思い当たることだと思いますが、原因の多くは、療育者の「場」の解釈と子どもの「場」の解釈のズレにあると言えます。同じことが、教材にも言えます。

知的障害のある子どもに、絵はどのように解釈されるか?

 例えば、「トイレでおしっこをする(または、うんちをする)」を教えたい時、どのような絵を見せればいいのでしょうか?こういう時、一般には、下記のような絵を見せるかもしれません。
しかし、この絵には、「便器がある」「トイレットペーパーホルダーがある」「子どもがいる」「男の子だ」「子どもが座っている」「青い服を着ている」「ズボンは紺色だ」「ズボンとパンツがずり落ちている」など、複数の要素が含まれています。では、この絵を見た子どもは、この絵のどこに注目するでしょうか?

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 また、「トイレでおしっこをする(または、うんちをする)」場合、その前後に一連の動作があります。そうした流れ(文脈)をヌキにして、いきなりこの絵を見た時、子どもはこれをどう理解するでしょうか?
こうした疑問から、私たちはある場面を表す絵を複数のパーツに分け、シリーズ化して作成しています。また、「静止画」には興味を示さなくても「動画」には興味を示す子どももいるので、パソコン画面で例えばスライドショーにすれば動画のように見えるように、意図的に場面を細かく切って作成しています。

 なお、この絵教材は、外国語教授法の「シリーズ・メソッド(サイコロジカル・メソッド)」や「直接法」の考え方もヒントにしています。
○シリーズ・メソッド(サイコロジカル・メソッド)
教師がある行動を目標言語で声に出して言いながら動作し、それを学習者が観察して言語を習得する方法。
○直接法
目標言語を使って目標言語を教える教授法。媒介語を使うことができないので、初級段階では、実物や動作、絵、写真などを使って教える。