2-6. 各工法の安全性について

1) 津波に関する過小評価
 杭式桟橋工法及びポンツーン工法にとっての最大の心配は大津波の襲来である。政府は、1997年調査と同じく過去100年の沖縄本島での最大津波高を採用したと考えられ、3.3mとしている。しかし、琉球海溝のことを考えるとさらに広く見る必要がある。1771年には宮古・八重山地方で波高30mを越え、12,000名の死者を出している。このクラスの津波があれば、基地上の航空機はもちろん、上記工法の基地もひとたまりもなく破壊され、それが陸上に打ち上げられれば、甚大な被害をもたらすと考えられる。

2) 埋立による地盤沈下の評価
 現在、関西国際空港の地盤沈下が、当初の予想をはるかに越え、しかも不均等沈下を起こしていることが、大きな問題となっている。政府案では、辺野古沖のリーフ及びサンゴ礁を埋め立てる計画であり、関西国際空港よりさらに複雑な海底地形上に建設することになる。とりわけリーフ外の沖合では土砂使用量も増え、現在の技術で正確に予測することは不可能である。

3) ポンツーンの保全管理の評価
 政府資料は東京湾(横須賀)におけるメガフロートの実証試験の結果の丸写しというべきものだが、これは、施設の規模の違い(メガフロートは予定基地面積の約30分の1)などを考えると、全く不十分な検討である。とくに、外海に面する施設はまだ研究されていない。

2-7. 各工法の環境への影響について

1) 埋立の影響−−サンゴ礁に大きなダメージ
 現在、サンゴは白化を起こしているとはいえ、今後の回復も可能であり、本海域のサンゴ生態系の成立基盤は損なわれていない。しかし、埋立は建設海域のサンゴの壊滅およびそこに生息する動物群の死滅を意味する。また、埋立により、周囲のサンゴも褐虫藻などが被害を受けて死滅することは、容易に予想される。また、隣接する藻場の海水交換も悪くなり、藻の生育を阻害する可能性が高い。これらは相互に悪影響を及ぼし会う恐れがある。さらに、埋立のための土砂の採掘地における環境破壊の問題もある。

2) ポンツーン工法
 海面浮体が設置されることにより、第一にその直下は止水となり、第二に光合成も大幅に少なくなり、生物は生息できなくなる可能性が大きい。また、貧酸素水塊または無酸素水塊ができることが予想される。こうした水塊は、東京湾の例を見てもかなりの距離を移動することが知られており、青潮となって広域の動物相を死滅させる危険性が大きい。また、これがマングローブ林に達すれば、魚介類の再生産に与えるダメージは甚大となる。

3) 杭式桟橋工法
 政府資料では、数千本にのぼる杭による海水流の変化はほとんどないとしている。しかし、政府調査の結果を見ても、リーフ内で10〜30%、リーフ外で40〜50%流速が変化しており、リーフ内では藻場に、リーフ外ではサンゴ礁に、かなりの影響があると思われる。また、基地直下の太陽光の阻害も考えられ、海草藻類やサンゴにかなり影響すると思われる。

2-8. 基地機能拡大と住民の被害について


1) 基地機能の拡大の免除
 政府調査では例えばヘリの発着回数や機種、またそれらの運用形態を、普天間基地と同様と仮定して、騒音影響などについて推定している。しかし、すでに垂直離着陸機V-22オスプレイや大型輸送機(C-17グローブマスターIII, C-5ギャラクシー)の飛来も言われており、それらの点をあいまいにした政府資料は、正しい提案になっていない。住民の安全を考えるなら、当然、新たな基地の軍事的機能の拡大・強化について、明確な見解を表明して、それに即した予測を示すべきである。

2) 名ばかりの「民間共用」
 新基地構想において、一定の面積を民間用にキープしているが、想定発着回数は米軍237回/日にたいし、民間は6回/日である。事実上、米軍専用基地にほかならず、機能的には既存の普天間基地の強化となる。経済効果としても一日数便の航空機の運航がやんばる地域の経済発展のカナメとなることなど、およそ期待できない。

3) 軍用機の飛行条件に限定がない
 日米安保地位協定上、米軍機の民間地域上空の飛行には制限がなく、辺野古への航空基地建設にともない、騒音や事故の危険が小さくなるという保証はない。本調査期間中にも、例えば、9月6日午後1時30分に普天間基地所属と思われるCH-46ヘリが名護市役所上空を低空で飛行し、ホバリングしたことが目撃された。基地ができた場合、こうしたケースが増えることは容易に想定される。

2-9. その他の重要事項

1) 自然災害の100年確率について
 政府資料では、大地震、台風禍などに関しては過去100年の現象を基準にしているようであるが、すでに東海大地震の予知体制は約150年前におきた地震の規模の再現を想定してしているように、100年間を見れば大丈夫とするのはもはや常識的でない。ちなみに、100年に1回起こる災害は、約40%の確率で50年以内に起こることである。

2) 辺野古付近の断層について
 政府資料においても、基地予定地のすぐそばに断層の存在を認めており、また、「日本の活断層」(1991、東京大学出版会)によれば、活断層の恐れのある断層と位置づけられている。

3) サンゴ、藻、ジュゴン以外への関心の希薄さについて
 政府資料は、全体に魚介類(ウミガメも含む)・プランクトン・マングローブ等への関心が少ないが、これらはこの海域の生態系において見逃すことのできない要素である。これらとサンゴ、藻場が一体となり、この付近の自然を形成していることに留意すべきである。その点で、政府資料は、この海域の生態系保全という視点を全く欠いていると言わざるを得ない。

III. 結論
3-1. 政府資料に関する見解

 これまでに指摘してきたように、政府の調査項目・調査方法・調査結果の判断は科学的でなく、このまま名護市辺野古沖合に基地を建設すれば、自然環境の保全あるいは住民生活環境全般にわたって、多大の被害を及ぼす可能性が大きい。また、今日の政治情勢から見ても、この基地建設には大きな危惧を感ぜざるを得ない。さらにまた、1997年の名護市民の住民投票結果をふまえるならば、たとえ民間と共用の飛行場としても、前回案よりも大型の基地建設を提案することは、環境保全の姿勢を欠くとともに、民主主義のルールにも反するものである。

3-2. 政府に対する要望


 政府資料をつぶさに検討するに、防衛庁が前面に立って環境影響評価を行っており、これは住民感情に照らして極めて奇異である。またこのことが、当該海域の生態系に無関心な結論を導く原因になっているといえよう。政府が、科学的批判や市民の判断に堪えうる包括的な環境アセスメントを、基地建設を前提とすることなしに実施するよう、強く要望する。


調査団の構成 調査目的 調査日程 調査報告 I.調査全体の構想 /II. 調査の方法及び結果  2-1. 藻場について  /2-2. サンゴについて /2-3. プランクトンについて

(前ページ)2-4. ジュゴンについて 2-5. 流れのシミュレーションについて

JSA沖縄ホームへ