読書と日々の記録2008.6上

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■読書記録:  12日『脳のなかの幽霊、ふたたび』 6日『学問と現場のふれあうところ』
■日々記録:  8日ネコ 4日教員免許の更新講習

■『脳のなかの幽霊、ふたたび─見えてきた心のしくみ』(V. S. ラマチャンドラン 2003/2005 角川書店 ISBN: 9784047915015 \1,575)

2008/06/12(木)

 『脳のなかの幽霊』のラマチャンドランの講演録。前作同様,非常に面白い。基本的なアプローチは前著と同様で,本書では,共感覚,ヒステリー,半側空間無視などが扱われており,それらの症例の患者に対して,神経科学的な説明を考え,そのことを,ごく簡単に見える実験を通して検証している。その仮説の鋭さ,検証の鮮やかさ,その結果から人間の脳や意識のありようが見えてくるさまが,とてつもない面白さの源だろう。

 共感覚について言うならば,共感覚者が本当に存在するのか,今までは明確でなかったところに,筆者は視覚的ポップアウトという現象を用いて共感覚者の存在を実験的に示しただけでなく,我々がみな共感覚者であることを,「ブーバ/キキ実験」というこれまた簡単な実験で示している。それだけでなく,共感覚の神経学的な説明から,メタファーや抽象的思考能力の説明にまで広げているのである。

 この話のうち,抽象的思考のところはまだ実は十分には理解できていないのだが,「なんだかワクワクする」感じの話なので,本書をヒントにもう少し考えてみたいなと思った。

ネコ

2008/06/08(日)

 1ヶ月ちょっと前からうちでネコを飼っている。妻が仕事先の公園で拾ってきた子猫だ。拾い猫だが,ちょっと毛並みはいい感じである(よくは知らないけど)。

 最初のころは,妻と子どもが「ネコ可愛がり」していて,私に対しては様子見な感じだったのだが,私の寝室がけっこうな遊び場であることが分かり,リビングから締め出されたときはよく遊びに来るようになった。

 そのうち,私の部屋(ベッドや座椅子など)でくつろぐようになり,最近は,ベッド脇で寝転がって本を読んでいる私のおなかの上に乗って寝るようになった(これは眠いときの話。元気なときは,カーテンを上ったり,私の手足を噛んだり,ゴミ箱をひっくり返してみたり,パソコンを触ろうとしたりして大変)。

 さっきも,ずーっと私の体のどこか一部に乗っかりながら眠っていた。そういうのってうれしいんだけど(そして,この体勢なら仕事もできるからいいんだけど),こっちも眠くなってしまうこともしょっちゅうである。

■『学問と現場のふれあうところ─教育実践の現場から立ち上がる心理学』(無藤隆 2007 新曜社 ISBN: 9784788510722 \2,300)

2008/06/06(金)

 心理学の研究者として,長年,幼稚園や小学校などの現場に関わってきた筆者が,「研究者が実践にどう関わっていくのか,また,実践をどうやって対象化していくのか」(p.27)などについて論じた本。ここ数年,小学校現場に関わりつつある私のために書かれたような本だった。

 といっても本書は,大学での講義が元になっているせいか,全体がかっちりと構成された感じではなく,ちょっと全体像が見えにくかった(少なくとも私にとっては)。そこで改めて全体をざっと眺めなおし,私なりに整理してみた。

 まず,研究者が実践に関わるしかたには,「研究としての関わり」「実践をよくするための助言者としての関わり」「政策立案過程への関わり」の3つがあるようである(p.95)。

 では研究としてはどのような関わり方があるのか。それはおそらく,実践を対象化して分析するというものと,実践者と一緒に実践を作るもの(アクションリサーチ)の2つがあるようである(p.29)。もっとも後者は,「研究」と「実践をよくするための助言者としての関わり」の両方の性格を持つものであろうが。

 さらに研究に関しては,次の記述もあった。

教育心理学の不毛性という議論があったけれども,その背後には教育心理学の基本的なパラダイムとしての「基礎−応用」という枠組みがありました。1980年代から過去30年間,その枠組みをいかに崩すかに研究の努力が払われてきました。一方では基礎研究が大きく発展し広がってきています。他方では,現場の中で,あるいは現場に近いところで,状況分析や教師の分析や子どもの分析がさまざまになされてきました。(p.19)

 すなわちこれをみると,研究としての関わりには,4種類ほどありそうである。一つは,より発展した基礎研究に基づくものである(現場に近い実験室実験ということかな?)。2番目は「状況分析」である。これは,教室を支配する「さまざまなルール,教室において機能している規範も含めて,状況を分析していくというアプローチ」(p.10)である。3つ目は「教師の分析」である。これは,「現場で実践者が知っているはずの暗黙の知識を研究者が取り出して,記述するという取り組み」(p.11)である。4つ目は「子どもの分析」である。これはたとえば子どもが持っている概念や理論を分析するものだが,おそらくそれ以外にも,子どもが教材などとどのように関わるか,相互作用の分析なども含まれるであろう。

 研究に関しては別の箇所で,「自己概念」という心理学的概念を例に出して,二様の研究のあり方が示唆されている。一つは,そのような心理学的な概念を比較的そのまま現場に持ち込むということである。伝統的な心理学の手法である。それに対して,現場での実践の中に,自己概念に相当するものが出てくる単元を見出し,その単元での子どもの反応やできること,できないことなどを分析する,というやり方である。これらはいずれも,前段落でいうと「子どもの分析」に対応するものであろうが,その問題設定のあり方を,学問志向的にも実践志向的にもすることができる,ということであろう。

 ちなみに筆者は別のところで,「たとえばある特定の概念というものが現場の中で実際にどういうふうになっているかということを検討しています。あるいは逆に,学校現場で働いている概念やメカニズムを心理学的に翻訳したらどうなるのかという問題意識をもっている場合もあるでしょう」(p.132)と書いているが,これは先の二様の研究のあり方に対応しているのだろう。もっとも「子どもの分析」をする際に,心理学的な概念を介在させる必要はない。たとえば子どもが教材とどう関わるか,その反応のバリエーションを分析する(p.164)のは,極めて実践志向的な研究的関わりであろう(筆者はこれを「ボトムアップ教材分析」と呼んでいる)。

 こうやってまとめなおしてから眺めてみると,当面私にできそうな,あるいはすべき研究とは,「子どもの分析」ということになりそうだ。それを具体的にどのように行うのかは,学問志向的なやり方もあれば,実践志向的なやり方もある。となると,たとえばああいう概念に着目してこう攻めるかああ攻めるか,という感じになってくるだろうか(詳細はもちろんヒミツ)。

 ということで,筆者の考えを指針にすると,今後の研究への示唆が出てきそうな感じで,私にとってとても有益な本だった。

教員免許の更新講習

2008/06/04(水)

 来年度から本格実施。今年度,うちの大学は試行をする。

 私も選択講習を開講するのだが,今日,担当の事務の方から連絡があり,参加希望者が募集定員の1.6倍強と伺った。定員が埋まって一安心である(というか予想以上に多いのでびっくり)。

 学校の先生が興味を持ちそうなものということで,講習のタイトルを「学ぶ意欲の心理学」としたのがよかったのだろうか(市川先生の本のタイトルのパクリである)。

 すすめ方は,グループワーク中心の「考えさせて教える」方式を予定している。本を読めば分かるような話をしてもしょうがないので,グループでお互いの経験を交流したり,こちらが出すトピックに対して考えてもらったりしつつミニ講義を挟もうと思っているのだ。グループワークなので,参加者が数名だったらちょっと困るなあと思っていた。何人受講を許可するか迷ったのだが,会場の規模が分からないので,定員の2割5分増しで切ってもらうことにした。

 内容は,大まかには考えているものの,細かいところはこれからである。といっても講習自体が9月なので,まだ急がなくていいんだけど(その前に,ほかにやることが山積みなんだけど)。


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