31日短評6冊 24日『AD/HD児へのペアレント・トレーニングガイドブック』 18日『教師という仕事と授業技術』 | |
| 25日夏の日差し 24日心理臨床から考えるコメントのあり方 |
もう5月も終わりか...って,毎月書いているような気もするが。実感だからしょうがない。最近,曜日の感覚がなくなっているのがコワい(昨日のことなのに,何日前だっけとか,今日は何曜日だっけ,なんて思うことがある)。
今月良かった本は,『教師という仕事と授業技術』かな。ほかの本もまあ悪くはなかったんだけど。
昨日から日差しが夏である。
外を歩くのに,帽子がないとツラい。つい,日陰を求めて歩いてしまう。信号待ちは電柱の陰で待機したりして。
梅雨入りしたばかりだというのに...
妻の蔵書。軽度発達障害関係のいい本,ない?と聞いたら貸してくれた。内容は,ADHD児の親が,子どもにうまく対処できるようになるためのトレーニングのやり方について書かれたマニュアルである。親訓練を行うのは,「親が自分の子どもに対する最良の治療者になれる」(p.7)と考えるためである。その主な方法は要するに行動療法で,以下のような内容となっている。子どもの問題を「行動」として客観的に見ること,ほめること,不適切な行動を上手に無視すること,上手に指示や罰を与えること,などである。
本書は,ADHDを持つ親や,その周辺にいる人たちに,親訓練について知るための本として,わかりやすい良書であると感じた。しかしそれだけでなく,実は本書は,「行動分析」の実際について知るための本としても良書であると感じた。行動分析は,原理は極めて単純で,要するに望ましい行動を強化すれば望ましい行動が増え,望ましい行動を強化しなければ望ましくない行動が減る,ということである。しかしそれを現実に他者に適用するためには,それなりのステップを踏む必要があるし,実際の適用のための具体的なテクニックがあるし,うまく行かなかったときにどうするかというポイントがある。そういったことは,これまでに読んだ本で言うと『うまくやるための強化の原理』や『パフォーマンス・マネジメント』などに紹介されている。これらの本は,ターゲットが飼い猫だったり会社の部下だったり,さまざまだった。
しかし本書は,ターゲットが「(ちょっと落ち着きがない)自分の子ども」と明確に絞られており,その分,進め方や問題への対処(こうなったときはどうする?的な)もかなり具体的になっている。しかもそれは,筆者らが行ってきたペアレントトレーニングの経験に基づくもので,要するに多くの人に体験され場合によっては修正されて来ているものなので,読んでいるだけでも有効そうな感じがする。
本書を読んでいて印象的だったのは,子どもに注目し誉めることの重要性がとても強調されていた点である。たとえば「実際にプログラムに参加した親の多くからきかれた「目からうろこ」は,ほめることの効果でした」(p.88)とか,「Attention(他者からの注目)の効果は偉大(特にAD/HDの子どもは,注目され好き!」(p.140)などと書かれている。誉めることの重要性は,頭ではわかっているつもりでも,なかなか日常生活で行うことは少ない(そういえばそんなことは『『ディズニー7つの法則』にも書かれていた)。そういうことを改めて思い出させてくれたという点でもいい本だった。
授業後の協議会など,何かにコメントするときのコメントのあり方を考える上で,心理臨床の考え方が役に立つかもしれない,と思った(というか,とある人がそのようなことを言っていたのだが)。
たとえばロジャーズのようなコメントのあり方がある。それは,相手の「鏡」になることで,相手が潜在的に持っている力を引き出す,というタイプである。この場合,本人が気づいていないことを指摘したり解釈してあげるなんてことは大きなお世話である。
一方,むしろ積極的に本人が気づいていないことを指摘してあげるタイプのコメントがある。心理臨床でいうなら,家族療法におけるリフレーミング技法的な考えである。つまり,相手が考えもしなかったような考えをあえて提示することで,出来事を捉える枠組み(フレーム)を変える手助けをするのである。手元にある本によると,リフレーミングによって,「自分・家族・人生史に関するクライエントの陳述や表現(これがナラティブ)がより健康促進的な内容に変貌していくのをそれとなく誘導する」(頼藤『ただしく悩む』新潮社, p.89)とある。ネガティブな見方をポジティブな見方に変えるということで,ポジティブ・リフレーミングと書かれている。
それ以外にも,もう少し積極的に相手を説得する,論理療法のようなやり方もあるかもしれない。あるいは精神分析のように,特定の理論に基づいて相手の言動を解釈することで洞察が起きることを促すやり方もあるだろう。ほかにもあるかもしれないが,私は心理臨床には詳しくないでこれぐらいしか思いつかない。でもこうやってアナロジカルに考えてみると,ふだん見えなかったものが見えてくるかも,と思った。
筆者は教育心理学者であるが,長年学校現場で授業作りの仕事をしており,その経験に裏打ちされた「授業技術」指南書である。授業技術といっても,ノウハウ的な技術を論じているのではない。まずはいい授業がどのようなものかについて,「いい授業とは,子どもにとって意味のある活動を通して,教師から見ても価値のある内容を実現する授業です」(p.22)と簡潔かつ的確に表現されている。その上で,授業をつくる上で大事な考えが論じられているのである。それはたとえば,こんな感じである。
単元構成に際しては,活動(何をするか)と内容(何を身につけさせるか)をしっかりと区別し,どうしても意識が向かいにくい内容について,まずは徹底的に吟味を行うことが不可欠です。その上で,内容に即して「使用前」たる「児童の実態」をとらえ,「使用後」(単元終了時)にどの水準までもっていこうとするか(単元の目標であり評価規準)をはっきりさせることが大事」(p.42)
さらにその際には,子どもの求めから活動を生み出す,教科書をいくつか集めて比較することで教科書の個性を見抜く,「待つ」ことをした上で指導性を発揮する,などという技術が紹介されている。これらは技術というよりも考え方や授業観に近いようなレベルのものという感じはするのだが,どれもよりよい教育のために必要な考え方だという気がした。
そのほかにも,指導案を作るプロセス,校内研究のあり方,授業研究会で「具体的な子供の事実を話し合いの中心に据える」とはどういうことか,など,私たち大学教員が小学校などに関わる際に参考になりそうな見方,考え方がたくさん紹介されていた。筆者自身,これだけの技に精通した上で,学校教員にも大学教員にも役立つような言葉で論じることができるというのは,そうとうに凄いことだと思う。次は筆者には,実際の授業や研究会の事例に即してこういうことをより具体的かつ深く論じてくれることを希望したい。