読書と日々の記録2009.08上

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■読書記録: 12日『教師のためのカウンセリングゼミナール』 6日『うつ病の真実』
■日々記録: 12日明日から 6日自宅待機

■『教師のためのカウンセリングゼミナール』(菅野純 1995 実務教育出版 ISBN: 9784788960732 \1,553)

2009/08/12(水)
〜まずは「素手」で答えてみる〜

 ずっと以前に買ってほったらかしていた本だったのだが,読んでみたらこれは非常にいい本だった。第一に本書では,筆者から問いが出され,読者がそれに,まずは「素手」で答えることが求められる。その上で筆者の回答や解説がなされているのである。このスタイルは最近の私の授業スタイルと同じ「考えさせてから教える」スタイルであり,なんだかうれしかった。

 扱われている内容も,単にカウンセリングそのものだけではない。タイトルに「教師のための」とあるように,学校現場のことが常に意識されており,内容も,子ども理解,問題行動の理解と対応,カウンセリング・テクニック,学校内での(主に教師間で生じる)問題,教師の自己啓発と,多岐に渡っている。このうち,学校内での問題については,たとえば「生徒指導」と「教育相談」の対立,なんてものが扱われている。なんでも,「生徒の指導をめぐって,校内で"生徒(生活)指導派"と"教育相談派"に別れて対立してしまう」(p.178)ことがあるのだという。こういうことには私はまったく気づいていなかったが,それぞれの言い分を見る限り,そういう対立(というか,教育相談に対する否定的意見)はあって当然だろうなという気がする。本書ではこの現状に対して,「あなたなりに「生徒指導」と「教育相談」それぞれの方法の特徴をあげてみてください」(p.180)という問いかけがなされ,筆者の考えや,両者の折り合いのつけ方が論じられている。

 また「カウンセリング・テクニック」の部分では,単なるテクニックの話だけでなく,親対応,授業に活かすカウンセリング,3分で行う(簡易)カウンセリング,生育歴の読み方,心理テストの活かし方など,実に教育現場に即した内容になっている。授業に関しては,「すぐれた教育実践の中には,必ずカウンセリング的要素が含まれています」(p.124)なんて書かれており,それが具体的に指摘されている。

 私もこれまでにカウンセリングや臨床心理学の本をいくつか読んできたし,その中には学校の先生が読むことを念頭において書かれたものもあったように思うが,本書のように,いわゆる心理臨床的な意味のカウンセリングだけでなく,学校の先生にとってのカウンセリング的なもの(カウンセリング・マインドというか)について,具体的に論じられた本は,私には記憶がない。そういう意味で本書は,内容についても形式についても,非常によくできた本であった。

明日から

2009/08/12(水)

 教員免許更新講習。今年持つのは必修領域なので,あまり楽しくない。それでもがんばって準備をして,週末に妻に見せたら,自分でも分かるメタメタ具合。しばし落ち込み,気を取り直して,いつもの授業スタイルに持ち込むことにした。それが吉と出るか凶と出るかは,明日のお楽しみ(かなり怖いのだけれど...)。

■『うつ病の真実』(野村総一郎 2008 日本評論社 ISBN: 9784535562653 \1,785)

2009/08/06(木)
〜精神医学の浅薄化と大衆化〜

 「うつ」についての本は何冊か読んだが,これは興味深い(ところのある)本だった。何冊か読んだといっても,どれも,うつについての啓蒙というか情報提供というか,「うつってこんなもの」という知識を得るためのもので,まあ大同小異といえば大同小異だった。

 本書は,「うつ病概念への安直な理解,もっとはっきり言えば誤解が蔓延しつつある」(p. 2)現状を憂慮し,「もっと本格的に,根本からうつ病を考えてみようではないか」(p. 14)と考えて書かれている。「根本」ということで,扱われているのは,進化生物学からみたうつ病の意味から始まって,ギリシャ悲劇や旧約聖書に照らすことでうつ病がいつごろから発生したかを考え,古代医学から近・現代医学でうつ病がどのように診断され治療されてきたかを概観し,現代のうつ病の診断のあり方のいろいろ,うつ病の薬理などである。

 とまあ本書は,ほんとうに幅広く,本格的にうつ病について考察されているのだが,なかでももっとも興味深いのは,DSM-IVによる診断(操作的診断)について書かれている部分である。 操作的診断とはプラグマティックな方法による診断で,明確かつ客観的に診断が下せるようになったが,その一方で,「精神医学の浅薄化と大衆化」(p. 174)という思いがけない副作用をもたらした。つまり,あまり考えずに診断を下す傾向であり,誰もが診断っぽことができてしまうということである。それが冒頭に述べられている「安直な理解,誤解」につながっているのである。

 ではどうすればいいのか,という話まではないが,本書を通して,それがどのように問題なのかはよくわかる。それは必然的に,うつ病についてきちんと考えることにつながっていくだろう。そういう意味でこの本は,たとえば私のように一般教養の授業でちょっとうつ病について触れたりする人間,あるいは身近にうつ病っぽい人がいる人など,いろいろな人が読むべき本(少なくとも知っておくべき知識)ではないかと思った。

自宅待機

2009/08/06(木)

 私の授業を受けていた学生に新型インフルエンザ患者が出たらしい。まあ,大人数クラスを複数持っているので,そういうこともあるだろう。

 私も濃厚接触者ということで,その授業の日から5日間は自宅待機となった。といっても分かったのが昨日の午後だったので,実質2日ちょっとなのだが。

 困るのは,やらないといけない仕事がたくさんあるのに,仕事に必要なものはほとんど大学にあること。昨日,とりあえず必要そうなものをかばんに詰めて帰ったが,やはり足りないものが多数あることに気づいた。

 まあそういうことはあるものの,昨日は(本来だったら出るべき)会議に出なくてすんだので,その分,仕事をすることができた。そういう点では,まあ悪くないか。


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