普天間基地の名護市への移設に関する公開質問状

2000年2月14日

沖縄県知事 稲嶺 惠一 殿
名護市長  岸本 建男 殿

日本科学者会議平和問題研究委員会 委員長  河井 智康
1997年沖縄米軍海上基地学術調査団 団長  木原 正雄
日本科学者会議沖縄支部 代表幹事      武居  洋

 昨年11月22日に沖縄県知事が意思表明し、12月27日に名護市長が受け入れを表明した米軍普天間基地の名護市辺野古沿岸域への移設については、その後の様々な情報を含め、極めて不透明な部分を含んだままで移設が既定事実のごとく進行しているように思われます。しかしその過程では数々の疑問を残しており、多くの人々の理解を困難にしているのが実状です。
 私たちは今回の基地移設問題は、昨年12月12日に日本科学者会議が表明したように、「日本全体の平和にとっても重大な意味を持つもの」であり、「移設計画は沖縄県知事と名護市長さえ合意すればよしとする局地的問題ではない」と考えます。またさらに、1997年当時に、日本科学者会議メンバーを中心として、現地調査を実施した結果からも、本移設計画には看過できない問題を内包していると判断しています。ここに、沖縄県知事、名護市長に対して、別記の質問を公開して行う次第です。遅くとも今年度末の3月31日までに回答を下さるよう要望するものです。


質問事項

1. 経過に関する質問

(1)1997年12月の名護市民投票において住民によって否定された案(反対53.8%、賛成46.7%)とほぼ同様の地への移設を再び提案すること自体が異常である。沖縄県が示した「候補地選定にあたっての基本的考え方」の中には、移設先の住民意思の考慮が含まれていない。県はなぜ住民意思を考慮しないのか明らかにされたい。また、もともと住民意思を考慮しようとしない県の提案をなぜ名護市が受け入れるのかについて改めて明らかにされたい。(→知事の回答)

(2)沖縄県が示した基地移設の整備条件のうち、特に15年の期限をつけることだけには「必要」の文字が付されている。文字どおり「必要条件」として、このことが満たされなければ、その他の条件の如何にかかわらず、移設を白紙に戻すと解釈されるが、そのように確認してよいか伺いたい。名護市もそれを文字どおり「必要条件」とするのか明確にされたい。(→知事の回答)

(3)1997年の政府提案では、基地の規模・工法を含め、A・Bの2案が提示された。そのことが現地住民の賛否の判断に役立ったと考える。しかるに今回の県の提案にはそれに類する提示がまったく行われていない。県は、その理由を明らかにされたい。また、規模・工法も不明のまま受け入れたことについて、名護市の考え方を伺いたい。(→知事の回答)

(4)今回の計画は、普天間基地の名護市への移設によって米軍基地の整理・縮小につながるとしているが、実態は、MV-22オスプレイという最新型輸送機の配備など、基地の機能強化ではないかと言われている。このような「機能強化」が行われても基地の「整理・縮小」の概念に反しないと考えるのかどうか、県の見解を明らかにされたい。(→知事の回答)

2. 自然環境への影響に関する質問

(1)沖縄県が指定した「自然保護区域」への基地建設を提案あるいは受け入れを表明することについて、県及び市の基本的な考え方を明らかにされたい。(→知事の回答)

(2)我々の調査によっても、建設予定水域付近はジュゴンの餌場となること、サンゴの回復中の群落があること、生物相の豊かなマングローブ林が存在することなどが明らかになっている。これらの自然環境への影響を極力少なくすると、県は整備条件の中で述べているが、その具体的方法について明らかにされたい。また、市も同様趣旨の「基本条件」を示しているので、具体的方法を示されたい。
 ちなみに、1997年の政府見解では、貴重な生物がいればそれらを他の水域に移すことを提案したが、これは自然生態系の保全についてまったく無理解な発想である。

(3)県の提案及び市の基本条件では、環境に関して今後必要な調査を行うようであるが、なぜ事前評価(環境アセスメント)による移設の可否判断を行わないのか、その理由を明らかにされたい。もしも、1997年の政府による調査をもってそれに替えようとするのならば、すでにわれわれの調査により反対見解が出されている(沖縄県知事、名護市長宛提出済み)ので、それに対する県及び市の具体的見解を示されたい。(→2-3知事の回答)

3. 住民生活への影響に関する質問

(1)現在でも辺野古周辺では多数の米軍が配置されているが、さらに2,500人に及ぶ米軍が移動してくることにより、住民数(辺野古区は約1,500人)と米軍人数のバランスが大きく変化する。このことは、住民生活に様々な影響を及ぼし、事故や犯罪が増えるであろうことも、他の事例から見て想像に難くない。そのような状況に住民をまきこむことは、地方自治法第2条3項(一)に示される「住民及び滞在者の安全・健康及び福祉を保持すること」という地方自治の基本原則を危うくするものと考える。また、本年4月施行の新地方自治法第1条-2に示される「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的に実施する役割を広く担うものとする」との基本原則にも合致しないと考える。これについての県及び市の見解を示されたい。(→知事の回答)

(2)普天間基地移設の一つの大きな理由が騒音問題にあった。辺野古沿岸域では、その点が緩和されるというが、普天間基地にはなかった大型機の配備、あるいは配備機種の変更や機数の拡大などがあれば、その保証はない。また、米軍は訓練を海上で行うようにとの宜野湾市の要請を常に拒否して、市街地上空での訓練を行ってきたことは周知の事実である。このことからも、基地の移設受け入れの判断は上記地方自治法の原則に合致しないと考える。県及び市の見解を示されたい。(→知事の回答)

(3)県は、基地移設にあたっての整備条件の第一に、「移設先及び周辺地域の振興」を要求している。1997年に海上基地との交換で経済振興を行うことが政府から示されたのに対して、日本中の世論は、両者をリンクさせるべきではなく、沖縄振興は独立して政府が行うべきであるとした。今回は地方自治体の側から交換条件として要求しているが、このことは、住民の安全を金で売り渡す行為という、あまりにも卑屈な姿勢であるとともに、今後に悪しき前例を残すことになると懸念される、この点に関しての県の見解を明らかにされたい。(→知事の回答)

以上

移設容認を強く批判する('99.11.22)   公開質問と知事からの回答('006.19)   

回答についての見解('00.7.10)   サミット開催にあたっての声明('00.7.19)

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